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砂絵 #16_26-28
十 入れ替え時
燃料工場、更衣室。着替えをする椎衣。その後ろで、日勤明け女達が立ち話をしている。
「また、消えたらしいよ。工場長」
「年中行事だね。もう誰も騒ぎやしない」
「でも、今度は違うって噂」
「どうして?」
「まだ、あがってこないんだよ。工場長のブツがさ。今迄、消えたその日にはあがってきたじゃないか」
「そうだっけ?」
「いつもと様子が違うから、今度こそ本物かもしれないって」
「本物?じゃあ今迄は?」
「ほんとは誘拐なんてなくて・・・。政府が仕組んでたって」
「どうして、そんなこと?」
「工場長になる奴は、始めから一定期間で消される契約らしい。その分、家族に割増の配給とか渡るんだって」
「そうなんだ」
「反対派、駆りたてる口実にしたいんだ。それに、僅かばかりでも資源も増えるじゃない」
処理場、プールサイド。椎衣はプールの縁に腰掛け、ぼんやり水面を眺めている。水の跳ねる音。気がついたように椎衣は壁面の時計を見上げる。時刻は午後十一時過ぎ。
搬入口から流れ込んだ数体が、水面に浮かんでいる。衣服は既に溶け落ち、どれもが青白い肌をさらし次の工程へ流れて行く。椎衣は一瞬目を見張る。そこには浮かんでいる。あの食堂の店主が。
「おじさん!」プールの縁から、椎衣は顔を突き出す。嗚咽とともに、椎衣の涙が水面に落ちる。
翌朝、椎衣はプールサイドに身を横たえている。朝日が水面に反射する。乾燥して引きつった涙の跡を椎衣は袖口で拭う。立ち上がりプールを見渡す。プールには浮かぶものもなく、水面は静かにさざめいている。