見出し画像

砂絵 #35_51

「違うって?」男は舷側から砂浜へ飛び降りてくる。須恵の横にしゃがみ込むと『ミミ?』と砂に描く。男は顔を上げ自分の耳を指さすと、須恵の横顔を覗き込む。
 須恵は男から目を反らし微かに頷く。男は砂浜に胡座をかき、子供の頃に返ったように砂に文字を描き始める。
『ここ 女 いた ?』
 須恵は首を振る。
『わかい めがね』
 須恵は一瞬宙を睨む。砂浜に目を戻すと、須恵は自転車の絵を殴り書く。 
「自転車?」男は不審そうに須恵の顔を覗き込み呟く。 
 須恵は頷く。
「ひとがり」男は首を伸ばし辺りを窺う。
『?』須恵は、自転車の絵の横に疑問符を描き足す。
『あぶら』そう描くと、男はそそくさと立ち上がりズボンについた細かい砂をはらう。