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砂絵 #26_41-42

 その女の追憶。バス停。霧雨混じりの夜風が吹きつけ、女の顔に水滴が丸く光ってこぼれ落ちる。女は水筒から麦茶をカップに注ぐ。両手で包み込むように唇をつける。熱い麦茶を一口咽に流し込むと、女の口から白い吐息がこぼれる。カップに淡い口紅の跡が残る。
 女は、バスの来る方向を漫然と眺める。背伸びをしながら体を傾ける。諦めたように、女は視線を落とす。雨に濡れ黒く光るアスファルトの道に。
 丘の上で車の照明が煌めく。照明の光を左右に振りながら、軽いエンジン音を響かせバスが坂を下りてくる。廃油から採った燃料が焦げ臭い匂いを漂わせる。行先表示灯の赤い文字が回転している。
 女は発券機から乗車券を引き抜くと、車内を見渡す。女が席につくとバスが動きだす。女は曇った窓硝子を肘で拭う。そのうち、女は首をうなだれうたた寝を始める。
「お客さん、終点だよ!」運転手が女の方に振り向いて叫んでいる。