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砂絵 #27_43

 女は周りを見回す。乗客はもう誰も残ってはいない。女は席を立ち、開け放たれた扉に向かう。
 浜に立ち尽くす女の姿。女は何かを待つようにしきりに首を回す。やがて、女は諦めたように腰を下す。
 駐車場。その女の周りを取り囲むように、自転車が走り回っている。女の前に一台の自転車スリップして止まる。少年が足元を指して何か叫ぶと、自転車を降り女に近づく。 
「靴ひも」少年は呟く。
「えっ?」女は少年の顔を見る。
「解けてるよ」 
 眼鏡の鞘を持ち、自分の足元を見下ろす女。履き古した運動靴の紐。濡れた地面に垂れ下がり黒ずんでいる。少年は女の足元に跪き紐を結び始める。「もう意味ないよね」と少年は囁く。
 女の視界が地面にゆっくり近づいていく。眼鏡のレンズが砕け散る。