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砂絵 #11_18-19
「わたしが、ですか?」
「初対面なのに唐突だけど。内観を一通りおさえてもらえればいい。勿論、バイト料は払うので。頼めそう?」
「わたしで、いいのなら」
「では」木川田はカメラを砂絵に手渡す。カメラを受け取る砂絵の白い指を、木川田は凝視する。やはり、夢と同じだ。なぜだ?その視線に気づいたように、砂絵は目をあげる。
「明日にでも、都合が良ければカメラをここに届けてくれれば。バイト料はその時で」木川田は、砂絵におずおずと名刺を手渡す。
「撮った写真はどんなことに?」
「ソフトウェアの開発に。人工現実感を使ったシステムなんだ」
「人工現実感・・・。難しそうですね」
八 須恵
椎衣は玄関の書き置きを手に取る。そこには『仕事を探しに行く 須恵』とある。
卓袱台に座り、椎衣は蒸し芋を口に頬張る。食べ終わると横になり、椎衣は目を瞑る。
夢を見る。プールに浮かんでいた、あの女の姿。助けを求めるように、女は水面から両手をゆっくり持ち上げる。粘り着くように、水滴が滴り落ちていく。女の青白い腕、骨張った指先から水滴が拭い落ちる。左手に指輪が光っている。
椎衣は、ハッと目を開ける。椎衣の顔を、須恵が覗き込んでいる。
「ああ、夢か」
椎衣の肩を揺すっていた、須恵の手が緩む。その手は、壁の時計を指さす。
「こんな時間?」椎衣は重たげに瞼を開き、時計を眺める。
須恵は白湯の入った湯飲みを、椎衣に渡す。まだ少し微睡んだまま、椎衣は湯飲みを啜る。