見出し画像

砂絵 #17_28-30

 シャッターが下りたまま大衆食堂。その前で暫く立ち尽くす椎衣。背後でシャッターの開く音。振り向く椎衣。向かいにある履物屋のシャッターを潜り男が顔を出す。男はシャッターを下すと貼紙を貼る。
「あの、すみません」 
「なに?」男が振り返る。肩に掛かった白髪まじりの束ねた長髪が、男の薄い胸に垂れ下がる。
「ここのご主人は?」 
「知り合い?この辺、誰も残っちゃいないよ」
「昨日まで商売やってたのに、どこへ行ったっていうんです?」
「あんた、知らないの?もう、この世にいないってことさ」男が首を振るたびに束ねた髪が揺れる。
「どういうこと?」
「この火みたいに、ちっぽけな灯になったのさ」男は垂れた髪を背中に戻すと、胸ポケットから煙草を取り出し燐寸で火をつける。
「どうして、そんなこと・・・」
「さあね。でも、自分の意思っていうのは間違いない。自然死より、配給の割増がだいぶいいし。ささやかな遺産代わりってわけさ。寄らば諸共っていう感じだったんだろう。年寄りが多かったこの辺も一晩でこんなありさまよ。入れ替えの時間が来ただけさ」
「入れ替え・・・」堪え切れず、椎衣は駆け出す。
「おうい、ねえちゃん。誰かいたら紹介してくれよ。俺、葬儀屋やってんだ」