風音

短歌を詠んでいます。時々詩を書く。苦悩があるからこそ日常と風景の手触りを大切にしたい。…

風音

短歌を詠んでいます。時々詩を書く。苦悩があるからこそ日常と風景の手触りを大切にしたい。楽しく生きます。

最近の記事

降る朝

露にうるんでいる夜と朝の狭間 澄んでいる 走れ走れ 群青から橙への空を吸い込め 走れ走れ 肺がキンと鳴った 耳の奥でも鳴った 空を大気を切り裂いてしまえと鳴っている たなびく群青と紫と橙 見惚れながら ひと思いに切り裂いたら どんなにか気持ちがいいだろう 人間は到底かなわない音がするだろう 透明な音が 粉々に砕けた粒がまたつどって わたしに光の粒が降ってくる 切り裂け 透明な音がきこえ 色が降りかかるまで 夜が明けきるまで (2015/11/7)

    • 祝福

      わたしは待つ ほころぶ前の頑ななつぼみをつけた木々のあいだで 地面にうずくまっている 夜の暗ささえも予感に包まれる瞬くように いつか、わたしに花が降るだろう 冬の眠りに秘められた予感梅は待つ かたいつぼみの奥で息を潜めている光の兆しは まだわずか 春を告げるために 藍色か 青黒い風の中 あたたかな光を 小さなつぼみに隠している 梅は待っている 東雲色の風 黄色い風 若草色の風を はりつめて 春を連れてくる風はまだか まだかと息を潜めている今だ と 梅が風に乗ったとき やわらか

      • 『祈りのかたち』を書いたきっかけ ~祈りと手仕事~

        2013年11月、志村ふくみさんと志村洋子さんの展覧会へ行き(しむらの部屋2013秋)、2014年9月、志村ふくみさんと交流のある土屋仁応さん(彫刻家)の展覧会(しむらのいろmeets土屋仁応展)へ行った。 神話の生き物のようで、現実にもいそうで、あたたかな手触りの感じられる動物たちにわくわくした。 彼の作品集のあとがきにこんな一節がある。 「期待された役割を担うために、彼ら(「見たことのないいきもの」)は相応しい能力を持ち、相応しい姿をして、相応しいどこかでひっそりと息づ

        • 祈りのかたち

          とんとんとんとん とんとんとんとん ざらざらかりかり すっ かたん ぱたん 音と動きに溢れて 日が過ぎゆくわたしにはなにもない そう感じる夜にかたく手を合わせて指を組む 目覚めると もう だれの手の中にも 進むための翼は眠ってはいない 合わせた手の中には何もない翼を持つなにか 天使? 早朝には窓枠に座り、カーテンが開けられるのを待っている 小鳥の声や電車の音 強い、青く冷たい風に消されないように そっと待っている 朝には ゆうべの味噌汁をよそう指先に腰かけ 小さくうたを歌う

        降る朝

          夜を生む糸

             夕暮れ雲せまり 頬に冷たい風受ける 空へ思い馳せるプラットホームで 柵から身を乗り出した 変わりゆく雲  きらめき陰りゆく光 見えない糸が紡いでいく 日が暮れるまでを布に紡いでいく 夕空から夜への入り口が縫われていく風は糸 空は布 針運びに魅せられても 冬の夕陽はわたしを連れ出さない 空との距離は縮まらない 目を閉じれば わたしを乗せて走り出すは透明な電車 日が沈んでしまう前に 風の糸で時間を縫っている空の中へ! 刻一刻 一針一針 ホームへ身体を置き去りにした

          夜を生む糸

          火の五行詩 ~ゴッホの火わたしの火~ 若松英輔さんのホームページに投稿したもの

          火の五行詩 お焚きあげ 煙は 青空を昇ってゆく河の流れ 焼き尽くす炎が 重荷を洗い流し 心の燈に変わる ―― 眠れない夜 世界が 星月夜色に埋もれる ひとり 幼い心の火を 数えている

          火の五行詩 ~ゴッホの火わたしの火~ 若松英輔さんのホームページに投稿したもの

          『呼吸する四季』笹井宏之賞の50首

          今年から短歌を始めました。 祈りと日常の季節がテーマの五十首です。目に見えないものを大切にしたい気持ちと日常の何気ないことを題材に作品を作りたい気持ちが両方あって、短歌五十首を作りました。読んでいただければ嬉しいです。 ―― 息止める言葉が溢れすぎている、聴きたい音は花開く音 笑みが落ちる風呂場の結露が落ちるように それはあなたが知らない涙 秋は空、春は足元から来たる 節分草がほころんでいる 夜空から直送されたファンファーレ 聞こえない音を吐き出す四月の朝日 光

          『呼吸する四季』笹井宏之賞の50首