クリスマスイブなのでビールとチキンを片手にWebアクセシビリティについて語るよ。

かざみんです。note使うのとっても久しぶり(5年ぶりだった)。今日は、DeafEngineers Advent Calendar 2022の24日目を書こうと思います!

私は目と耳の両方に障害を持っている人で、前職ではアクセシビリティ関連の仕事をしていました。モバイルアプリのテストをしたり、AndroidやiOSのコードも多少書いたり、あと聴覚障害を持つ社員向けに音声を文字に書き起こすサービスを提供したりとか。ナツカシイナー。

自分が仕事で関わったプロダクトが使われているのを見ると、多少は世の中に貢献できているかなとか思うクリスマスイブ、今夜はビールとチキンを片手にアクセシビリティについて思いの丈を語りましょう。ポエムと言われたっていいもん😇

そもそも、アクセシビリティは誰のためのものか

Webエンジニア、Webデザイナーなら、HTMLを学ぶとき「スクリーンリーダーを使う視覚障害者のためにimgタグにはalt属性をつけましょう」と一度は聞いたことがあるはず。

さて、ここでいう視覚障害者とはどのような人でしょうか。白杖を持って歩いている、目が全く見えない人でしょうか。

視覚障害者にもいろいろなタイプの人がいて、いろいろな見え方があります。視力が悪いだけでなく、視野が狭かったり、眩しさを感じやすかったり。生まれつきの障害かどうかによっても見え方は違ってきますし、複数の障害が重なることもあります。

視覚に異常がなくても、見ることに困難を抱える人もいます。たとえば、ディスレクシアといって、文字の読み書きに障害を持つ人がいます。そのような人にとっても、スクリーンリーダーは有用です。

そして、晴眼者(目の見える人)であっても、一時的に、見ることに困難を抱えることはあります。この冬、運転中にホワイトアウト状態になれば、周りの景色どころが、近くにいる車も見えなくなります。怖いですよね。そのような状況でも、見る以外の代替手段があれば安全に運転することができます。

アクセシビリティは、特定の種類の障害を持つ人だけのものではありません。まずは、障害を持っているか、持っていないかにかかわらず、誰にとっても身近なテーマであると感じてもらえたらなと思います。

情報にアクセスできないと社会から取り残されてしまう

実は、視覚障害と聴覚障害には一つの共通点があります。それは、たんに聴こえない、見えないというだけでなく、音声や視覚を通じた情報にアクセスできず、その結果、社会から孤立する障害であるという点です。

私には、生まれつきの白内障と難聴があります。この世に出てきてしばらくは、光がなく音もない世界にいて、人形のようにおとなしい赤ちゃんだったそうです。まわりにどんな人がいるかわからないし、どんな物があるかもわからない。人間らしく笑うようになったのは手術を受けて目に光が届いてからだったそうです。

「目が見えないことは人と物とを切り離す。耳が聞こえないことは人と人とを切り離す」という哲学者カントの言葉がありますが、まさにその通りだと思います。

情報にアクセスできないということは、そもそも情報があるということすら認知できないということです。どれだけ便利なサービスを作っても、そういうサービスがあるということすら、知ることができません。

今年の夏から秋にかけて、駅のホームにあふれる音を可視化する「エキマトペ」という装置が上野駅のホームに置かれました。エキマトペを見て「こんなに音情報があるのか」と初めて知った人もいます。

そう、駅の階段の上で慌てて走り出している人たちは、電車のブレーキ音や発車メロディを聞いて「やばい、乗り遅れる」と気づいて瞬時に行動を判断しているのです。(※駆け込み乗車はやめましょう)

そういう音情報がある、ということも、聞こえないと知ることができないのです。

リアルタイム音声認識アプリYY probeという文字起こしアプリを電車の中で使ってみたところ、車内放送で乗り換えの時間とホームまで教えてくれていたのか!と感動した友人もいました。

YYSystem社のウェブサイト (https://www.yysystem.com/) のスクリーンショット

(アドベントカレンダーの19日目「次世代の音声認識YYProbe開発者に聞いてみた」に開発者の中村さんが登場してくださっています。)

聞こえる人にとっては当たり前のようにあって、当たり前のように利用できている音情報があることすら知らない。ときには命の危険をもたらすこともあります。NHKの調査では、東日本大震災では緊急地震速報に気づかなかったために、被災地の自治体において、聴覚障害者の死亡率は全住民の1.7倍であったことが分かっています。(参考ろうを生きる 難聴を生きる「東日本大震災10年 命を守るための提言」)。

目や耳の障害の本質的な困難は、情報にアクセスできないために人や物から切り離されてしまうという部分にあります。

アクセシビリティの問題は理想ではなく現実の問題

ユーザビリティとか、ユーザーエクスペリエンスとか、いろいろな言葉があります。最近はUX改善とかいったりしますよね。

ここでテストに出そうな大事なポイントですが、ユーザー(お客さん)にサービスや商品の価値を感じてもらうには、そもそも、お店=ウェブサイトにアクセスできることが大前提。

デザインはモダンでいい感じだけど、ベージュの背景に白い文字が乗っていて、読ませる気あるの?そのウェブサイト、何のためにあるんですか?って聞きたくなることも時々あります。

アクセシビリティうんぬんって言うけど、予算にだって限りがあるんだから、という声も聞こえてきます。理想はこうだけど現実的には無理ってやつ。私自身も「予算はこれしかないので諦めて」と言ったことがありますね、同じ聴覚障害者を持つ社員に対して…。

私たちは、誰もが加齢により身体の機能が衰えて、目が見えづらくなったり、耳が聞こえづらくなったり、認知機能が低下していったりします。我が国は超高齢化社会であり、実は「見えづらい人」「聞こえづらい人」は多数派なのです。

アクセシビリティの問題に対しては「こうなったらいいね」「できたらいいね」という理想ではなく、私たちが直面している現実の問題として取り組む必要があるんじゃないかなあと思っています。

次に、具体的にどういう場面で困るか、いくつか例をあげてみます。

「情報へアクセスできない」具体的な例

動画コンテンツに字幕がついていない

私がWebの世界に興味を持ったのは中学生の頃で、きっかけはチャットでした。文字でなら聴こえる人と対等にコミュニケーションできることに喜びを感じていました。アドベントカレンダー5日目の『ろう者のエンジニアとして働くということ①』という記事でnaoさんも似たような経験をなさっていて、すごく共感しました。

ここ数年は動画コンテンツに頭を悩まされています。なぜかって、字幕がついていないから。

Web技術関連についてはUdemyで英語の字幕をつけて見る方法があるのですが、世界史や生物といった高校までに学ぶ内容をあらためて日本語で学び直したいと思ったときには困りました。スタディサプリやN予備校などの有名なサービスには字幕がついていないからです。

オンライン学習のプラットフォームでコンテンツ量が増えたあとで、字幕をつけてほしいという要望に対応するのは大変ですし、プラットフォーム立ち上げの段階からアクセシビリティを要件に入れてほしいと思うのです。

聴者も音を出せない環境で字幕を利用することがありますし、聴覚障害ではなくても発達特性で字幕があったほうがわかりやすいという人もいるはずです。

最近では、M-1グランプリの生放送で字幕がついていないのはなぜかという問題提起がありました。それに対して、放送局からは、音声のスピードが速いため、生放送での字幕付与は困難との見解が出ています。

「M-1グランプリは、スポーツ中継などほかの生字幕番組に比べて、音声(掛け合い)のスピードが速いため、生字幕の付与に際して、文字起し担当者に求められる速度や難易度が非常に高くなります。 このため、字幕表示の大幅な遅延、また、言葉数が多く被せることもあるために字幕が時間内に収まりきれず、端折らざるをえないケース、あるいは誤表記となってしまうケースが多発することが予想されます」

「M-1に字幕をつけて」の声にネットで賛否…朝日放送テレビが明かした導入への“ハードル” (12/24、女性自身)

通常の生放送でも、字幕のほうが十数秒遅れて出てきて、画面に出ている内容と字幕の内容とがずれてしまう課題があります。それに対してNHKから「ぴったり字幕」という手法が提案され、東京オリンピック・パラリンピックの放送でも使われていました。

ただ、漫才は早口なだけでなく、間の取り方も重要なポイント。ポンポンと出てくる笑いの仕掛けをうまく伝えるには、既存の字幕放送のユーザーインタフェースは最適でないような気もします。

それでも、字幕があれば、周りの人が何で笑っているのかまでは、分かるはず。家族や友人が笑っているなかで聞こえない自分が一人だけ取りこぼされずにすむので、放送局からも良いアイデアを出てくることを期待しています。

電子書籍で音声読み上げ機能が使えない

ここ数年、電子書籍が増えています。昔なら読みづらくて手が届かなかったであろう本を、いま電子書籍で読むという選択肢が増えました。岩波文庫のように文字が薄く見えて手を出しづらかった本も、今なら電子書籍で読める…!という喜びを感じます。

一方で、切実に困っていることもあります。電子書籍には、固定レイアウト版とリフロー版(テキスト版)の二種類があります。

固定レイアウト版では、紙の書籍の見た目がほぼそのまま再現される一方で、ユーザーがフォントを変更できず、音声読み上げ (Taxt to Speech: TTS) 機能も使うことができません。技術書や資格試験の参考書であれば、検索機能を利用できないのは不便です。

一方、リフローレイアウトでは、色や文字の大きさ、フォントを選ぶことができますが、Amazon Kindleアプリの場合、日本語では選べるフォントは明朝体かゴシック体の2種類しかありません。(私個人の感想では、固定レイアウトのほうがむしろ読みやすくてマシというケースすらあります。)

英語の本では8種類のフォントから選ぶことができ、その中にはOpenDyslexicというディスレクシアの人のために作られたフォントもあります。日本語でもUDフォントを選べるようになってほしいです。

Amazon Kindleアプリで英語の本を開き、OpenDyslexicを選択肢した状態。

固定レイアウト版もリフロー版もそれぞれメリットとデメリットがあるので、ユーザーが選択できることが望ましいと思います。実際に、体系的に学ぶ 安全なWebアプリケーションの作り方のように、固定版とリフロー版の2種類が配信されている本もあります。

電子書籍は、リアル書店が減っていく中で、知のインフラを支える重要な役割を担いつつあります。幸いなことに私が住む街にはいくつかの大型書店がありますが、それでも大型書店の撤退や縮小が相次いでいます。

そのような状況下において、より多くの人が電子書籍にアクセスできる環境を実現していくことは、出版業界の生き残りの鍵になるのではないでしょうか。

支払い画面のユーザーインタフェースが異なるセルフレジ

COVID-19の影響により、非接触でできる支払い手段としてセルフレジの導入が進みました。確かに手での現金受け渡しを回避することができますが、ベンダーによってユーザーインタフェースの違いが大きいように感じます。

まず、商品を読み取るバーコードの読み取り位置が違うし、紙幣や硬貨を投入する場所も機器によって違います。真ん中あたりにあることもあれば、下にある場合もあリます。タッチパネルの表示や操作方法も機器ごとに違っていて、障害を持っていない人でも戸惑うことがあるのではないでしょうか。

以前なら店員さんに商品を渡して、お金を払う、袋詰めはお任せ、という共通の、シンプルな動作ですんでいたことが、今はお店ごとの違いが大きくなり、支払い手段の選択肢も増えすぎて、便利になるどころが、かえって買い物が難しくなったと感じる人もいるのではないかと思います。

(元のツイートが思い出せないのですが、)Twitterで、認知症?のお年寄りがテレビの電源をつけられずに困っているところ、昔のテレビのように、電源をオンオフするだけのシンプルなスイッチに変えたところ、使えるようになったという投稿がありました。

私たちは「こうすればもっと便利になるのに」と思いがちですが、「今までのプラクティスを変えない」ということも大切な考え方だと思います。

読みづらいクリスマスカード

今日はクリスマスイブ。サンタさんが世界中にプレゼントを届けている最中。クリスマスカードを送った人はいますか。あなたが作った素敵なクリスマスカードは、想いを伝えたい相手に伝わるものでしょうか。

先日、行きつけのお店から赤い背景に黒い文字で何か書いてあるハガキが届きました。それはクリスマス大感謝祭のクーポン券だったのですが、色を変えるだけでグッと読みやすくなるのになあと思いました。

赤い背景に黒文字と白文字、読みやすいのはどっち?

色だけでなくフォント選びも大事です。最近、自治体からのお知らせでUDフォントを利用しているものが増えてきました。

上のサンプル画像でも、モリサワの『BIZ UD新丸ゴ』というUDフォントを使っています。

最近のWindowsにはBIZ UDゴシックやUDデジタル教科書体が標準バンドルされていますが、 MORISAWA BIZ+ というUDフォントのサブスクを使うと、BIZ UDゴシックよりもさらに読みやすいUD新ゴが使えます。

月額330円ですが、缶コーヒー2本分で眼精疲労が大幅に軽減されたので、アクセシビリティ推し勢とか関係なく、みんなに使ってほしい。会社全体で導入してほしいし、そんな会社あったら入る。

ちなみに「見えにくい」「読みづらい」に対してどんな解決策があるかは最近こんな本が出たのでぜひ読んでみてください。

アクセシビリティについて学ぶことは、異なる世界の入り口

ここまでつらつらと書いてきましたが、アクセシビリティについて学ぶ楽しさは、自分とは異なる世界の見え方を発見することにあると思います。単なる配慮ややさしさではなくて、自分とは違う存在のことを面白いなと思ってくれる人が増えると嬉しいです。

異なる世界の見え方を知るのはすごく面白いです。生まれつきの障害を持っていると、障害のない人たちに対して「何度言っても分かってもらえない、もうこれは永遠に分かり合えないんだろうなあ」と絶望しかけることもたびたびあるのですが、その「分かり合えない」という現象そのものも面白いなって思います。

最近ベストセラーになった「認知症世界の歩き方」は、認知症に限らず、聴覚障害、視覚障害、発達障害の人と共通する部分もあるなあと興味深く読みました。

視覚障害に関してはこちらの本もとても面白かったです。

ここまで書いておいてWeb技術寄りの話をしてないことに気づいたのですが、来年の春にはなんか圧の強そうな本が出るらしいので楽しみにしています、と書いてゴニョゴニョ誤魔化すことにします。

そうそう、デジタル庁からウェブアクセシビリティ導入ガイドブックが出たことも最近話題になりましたね。PDF版がアクセシブル仕様になっていて、代替テキストも気合が入っています。いいねいいね!

ピーター・モービル氏によるUXハニカムの図に対して、代替テキストが設定されている。(Adobe Acrobat Proを使用して確認)

最後に、個人的には、今は体調があやしくて、Macbookと戯れる機会が減り、Adobe税だけが吸われている状態なんですよね(涙)。来年の目標は、さすがに世界をもっとアクセシブルにすることにコミットしていきたいし、あわよくばそれを仕事にしたいよね、といったところでしょうか。

それでは良い聖夜を。メリー・クリスマス!

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