初めてのイタリア紀行の思い出

先日、イタリアはヴェネツィア、ヴェローナ、マントヴァ、ローマを訪れてきました。

ーーヴェネツィア、最高。ヴェローナ、最高。

人生初の一人海外旅行ということで、出発前は不安がありましたが、蓋を開けてみれば、特に進退窮まるような場面はなく、空港やホテル、レストランなどでのやり取りも問題なくこなすことができました。
(ヴェネツィアのリド島の海の家で「シーフード・ピザ」が通じなかったのは失敗でしたが。)

ちなみに、私の愛するお人形たちも一緒に連れて行きたいと思い、小さな小鳥のあ子ちゃんを始めとして三体を連れて行くことにしました。

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麗らかな陽気にも恵まれ、眩しい陽射しの降り注ぐ中、ヴェネツィアのマルコ・ポーロ国際空港に降り立ち、事前に調べていたAlilaguna社の水上バス、ヴァポレットの乗り場に行き、チケット売り場で事前にプリントアウトしていた予約票を「Can I use this voucher?」と言って、乗船券に引き換えてもらった上で、乗車しました。

小型の水上バスは出航し、穏やかな海を進みながら、徐々に煉瓦造の鐘楼や建物たちが見えてきます。
到着が昼下がりでしたので、初日は宿泊地のリゾート地として有名なリド島にそのまま向かい、グランドカナルは翌日に回しましたが、鐘楼からの時報の鐘が水上バスの上で聴こえてきて、とても風情がありました。

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リド島は『ヴェニスに死す』の舞台にもなった、まさにリゾート地と呼ぶに相応しい場所で、見渡す限りの白い砂浜と西洋式の海の家が立ち並ぶビーチが広がっていました。
リド島のヴァポレット発着所の駅から、リゾート風の装いの人々とすれ違いながら、右も左もハリウッド映画に出てきそうな西洋人ばかりで、映画の中に迷い込んだような感覚を覚えるとともに、異邦人としての「アウェイ感」を初めて実感いたしました。
この「アウェイ感」には二日目にして慣れて、堂々と店に入って注文したりもできるようになりましたが、最初は小さな売店(タバッキ)で水を買うのにもビクビクしていました。これは良い体験でしたね。

駅から歩いて10分程度の場所にあるビーチに到着し、海の家でピザと水を注文して夕食にしました。
駅前には立派なレストランもありますが、リド島のビーチで『ヴェニスに死す』ごっこをやる、というのが今回の旅行の目的の一つでもありました。
この『ヴェニスに死す』ごっこを通じて、私自身の内面と向き合いたいとも考えていましたが、どこまでも美しいビーチとリゾート地特有の緩やかな空気感に、癒される心地がいたしました。

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初日と二日目のホテルは、リド島のホテルリバマーレでした。
口コミサイトのTripAdvisorで、「私の妻はおそらくワードローブの余裕がないと批判するでしょう。しかし、朝食に関係する日常の喜び - それを世話している若い女性。彼女は騒々しく動いて、」という直訳のコメントを見た瞬間、ビビッときまして、宿泊を即決いたしました。
外国文学の直訳調の文体、好きなのですよね。

三日目の朝、誰もいないレストランで朝食ブュッフェをとっている時の静かに流れる時間、柔らかな朝陽と穏やかな空気感、とても良かったです。
またぜひ泊まりに行きたいと思います。

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その時、私はこう思いました。
「一人、朝食ブュッフェを取りながら思ったこと。
遠い異国でも、アップルパイはアップルパイの味がする。
ピザはピザの味がするし、クッキーはクッキーの味がする。
そこには何らの違いもない。
国が違おうと、アップルパイがアップルパイの味がすることには、何らの違いもありはしないのだ、と。」
(アップルパイ云々についてはどこかで聞いたような気もいたします。)

永遠の水都ヴェネツィアは噂に違わぬ最高の街でした。
輝く海と美しい教会、入り組んだ煉瓦の街並みを縫って進むゴンドラ、壮麗な宮殿……。異国の観光地に求めている全てがここにありました。
思い返せば、二日目のヴェネツィア観光と四日目のヴェローナのジュスティ庭園が今回のハイライトでしたね。
ヴェネツィアで私が最も気に入った建物は、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会ですね。
海辺に浮かぶ小さな白い教会。壮麗な装飾が施されており、水色のクーポラがとても可愛らしく、素敵な教会だなと思います。

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ドゥカーレ宮殿では、高名な≪天国≫などの絢爛豪華な天井画が壁面を埋め尽くしていましたが、それ以上に私が惹かれたのは、ペロポネソス戦争を描いた間に置かれていた門でした。
確か、ギリシャから移設したという話を聞いた覚えがありますが、本当のところは調べないと分かりませんね。(現地の案内板は英語か伊語で、よく読んでいませんでした。)
今回の旅では、なぜか「門」に惹かれて、通り過ぎる建物の門を繰り返し撮影していました。
どうして、こんなにも門に惹かれたのかは今も分かりません。
狭き門。
門は入り口であり、出口であり。
始まりであり、終わりであり。

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もちろん、ヴェネツィア名物のゴンドラにも乗りました。
六人の乗合せと貸切の二回乗りましたが、€80で貸切にした方が絶対に良いなというのが私の感想ですね。六人乗りはゴンドラの中でぎゅうぎゅう詰め状態でした。
小さな水音を立てながら静かに運河を渡る小舟。
美しい教会と煉瓦造の街並み。
京都の二年坂並の観光客の多さには辟易でしたが、それを差し引いてあまりある美しさに満たされていました。
「羽を伸ばす」というのはこういうことなのだな、と思いました。

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サン・マルコ広場の有名なカフェのテラス席で昼食のサンドウィッチをとりましたが、ダンディーなウェイターさんから二度も注意してもらったにもかかわらず、サンドウィッチに被せる丸い蓋を外して食べていたら、鴎か鳩が急降下してきて私のサンドウィッチの一ピースを奪って飛び去ったのは、失敗談ですね。

ちなみに、ヴェネツィアのサンタルチア駅近くのコインランドリーで洗濯をしましたが、操作盤の案内が非常に分かり難くて大変でしたが、何とか成功いたしました。これはちょっと初見では無理ですね。

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さて、三日目にヴェネツィアに別れを告げて、高速鉄道italoでヴェローナへと向かいました。
italoはフェラーリ特急との異名もある格好良い車体で、座席も広々としていてとても快適でした。
ヴェローナ〜ローマ間の3時間半でも利用しましたが、とても良い特急列車だなと思いました。
ちなみに、網棚に荷物を載せておくと盗まれるかもしれない、という事前情報もありましたが、ワイヤーで縛るなどの措置をしなくても特に問題ありませんでした。
(ただし、ヴェローナ駅に着いてから、駅前でバスを待っていたら、「荷物を持ってあげるからお金ちょうだい」的な言葉を発しながら近付いてきた男に絡まれたりもして、その時は「No, No, No, No, Thank you.」で切り抜けました。いわゆる「カツアゲ」のような行為は日本でもありますが、どこにでもいるのだなという感想ですね。)

ヴェローナの街並みは素晴らしく、ヴェネツィアよりも道幅は広く、煉瓦造の美しい建物が右も左も埋め尽くしていて、最高でした。
これほどの、歩いているだけで楽しい街並みは、京都の四条通りとヴェネツィアとヴェローナくらいしか私は知りませんね。
到着後、にわかにスコールのような雨が降り出しましたが、売店で折り畳み傘を購入して観光を続行しました。
やがて雨は小降りになり、しっとりと濡れた街並みもとても風情がありましたね。
今回は半日の滞在でしたが、次回は二日がかりでゆっくりと堪能したいと思います。

ちなみに、ヴェローナのスーパーマーケットにも入ってみました。
見慣れないパッケージの食品たちが並んでいましたが、品揃えはパスタが大量に陳列されていたほかは日本とあまり大差なかったですね。
どこの国でも、スーパーマーケットと集合住宅の暮らしは何ら変わることはないのだなと実感いたしました。
(レジの気さくな感じのおばちゃんは英語は話せない様子でしたが、雰囲気で何とかなりましたので、全く問題ありませんでしたね。)

ホテルは普通のビジネスホテルで、快適でした。
ちなみに、フロント係の方がハリウッド女優かと思うほどの美人さんで、驚きました。
イタリアではすれ違う人たちが美男美女ばかりで驚かされ、映画の世界に迷い込んだような感覚も覚えて、これも魅力の一つなのだなと実感いたしました。

『ロミオとジュリエット』の舞台となったヴェローナの美しい街並みを散策して、訪れたジュスティ庭園。こちらが今回の一番のハイライトの一つとなりました。
あまりの美しさに、急遽、次の予定を1時間ずらして、滞在時間を伸ばすことを即決いたしました。これを見るために来たのだから。
コンパクトながら、私がこれまでに見てきた庭園の中でも一番、美しいと思いました。
庭園、迷路、噴水、彫像、領主館。私の求めていた全ての要素がこの庭園にはありました。この庭園との出会いは、ちょっと運命的なものを感じたりもしましたね。
(今月、発売の新刊『小鳥たち』にも、壮麗な宮殿と広大な噴水庭園が登場することも念頭に置いていました。)

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急いでヴェローナ駅から列車に乗って、マントヴァへ。
マントヴァのテ宮殿のジュリオ・ロマーノの天井画は、山尾悠子先生の『遠近法』のモチーフともなったということで、今回の旅の目的の一つでした。

実際に見る≪巨人の間≫の天井画は、確かに、天井から壁面にかけて、空間全体が一つの舞台のように感じられ、実際にその絵画の中の空間にいるような錯覚を覚えるような趣向が凝らしてありました。
また、天井の無限回廊も見事ですが、下方の壁面では崩壊しつつある様子が描き出され、阿鼻叫喚の光景が広がっていました。
天の高みへと続く無限回廊と、崩壊しつつある下界の光景という、対照的な二つの光景が渾然一体となっているところが面白いなと思いました。

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その後、ヴェローナへと戻り、高速鉄道italoでローマへと向かいました。
ローマ駅近くのホテルは、小規模ながら格式が感じられ、特にテラスが付いている部屋は初めて見ました。

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ローマではいよいよ、ヴァチカン美術館、ボルゲーゼ美術館で、西洋芸術の最高峰を見学してきました。
その超絶技巧には目を見張りましたが、個人的には、期待していたほどの感動は得られませんでした。
ただ、サン・ピエトロ大聖堂のピエタさんは、静謐な雰囲気を纏っており、とても好みでした。
設置場所からの距離があり、持参した双眼鏡の倍率が低く、間近で鑑賞することが叶わなかったことが心残りです。
私の興味の中心は、やはりお人形であり、彫刻ではなく、「奥床しさや、佇まい、隣に寄り添っていてくれる感覚」というのは、お人形特有のものなのだなと、再認識いたしました。

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迎えた最終日は、ヴァチカン美術館とボルゲーゼ美術館の二回目を予約していましたが、急遽、キャンセルして、ローマ市街の散策とフォロ・ロマーノの見学に行くことにしました。
フォロ・ロマーノでは、遺跡という存在が持つ、在りし日の人々の営みの残り香のようなものが感じられて、降り注ぐ陽射しは厳しかったですが、行って良かったです。
(急いでローマ市内のお人形店を検索して、二件ほど当たってみましたが、目当てのものとは違うようでした。)

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また、カプチン派教会の通称・骸骨寺も訪れてみました。
規模は小さいながら、人骨による壁画のような装飾が壁面を埋めつくしており、あたかも「人骨アート」とでも呼べるかのような印象を受けました。
眺めているうちに、肩甲骨や骨盤は形がいいな、大腿骨は骨らしいな、などと、アートとして見ている自分がいました。

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カプチン派教会での思わぬ収穫は、カラヴァッジォの≪瞑想する聖フランチェスコ≫を見ることができたことですね。
聖フランチェスコは、山尾悠子先生の『ラピスラズリ』にも登場しますが、こちらの作品を見て、より明確にイメージできるようになりました。
「人骨アート」についても、メメントモリーー死を遠ざけるのではなく、あえて直視することにより、かえって心の安定を得る、という意図があるのだとすれば、理解できるような気がいたします。
あるいは、そのような意図を超えたところで、「骨」という存在が持つ「美」を、アートの一面として感じることもできるかもしれないとも思いました。

さて、ローマの熱い陽射しにやられてフラフラになりながら、予定よりも早く空港へと向かいました。(もう少しローマを散策すれば良かったと後悔。)

今回の戦利品はこちら。
二日目のヴェネツィアの時点で所持金の三分の一を使い果たしたことに愕然として、財布の紐をきつく締めすぎたせいで、大切なお人形たちへのお土産をほとんど買うことができなかったのが心残りです。
また、ローマで素敵なスカーフ店があったのですが、店主が外出中とのことで、残念でした。

初めての一人海外旅行は思ったよりも楽勝で、「アウェイ感」にもすぐに慣れ、とても良い出会いもあり、盗難などもなく、いくつかのアクシデントはありましたが、それも許容範囲であり、とても良い体験ができました。
ローマから空港へと向かう特急列車の中で、このままヴェネツィアにとんぼ返りして、異邦人としての生活を続けたい、という思いが湧いてきました。
それをぐっと押し殺して、帰国した翌日の出勤の朝は、見慣れたコンクリートの集合住宅や商業ビルに退屈さを感じましたが、またすぐにヴェネツィアへ行こうと決心いたしました。
帰国から10日も経っていませんが、すでに次回の予約の検索をして、荷造りもほぼ完了しております。(爆)

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