『徒花異譚』の感想

ノベルゲームとは何か。

『AIR』『Forest』『腐り姫』『徒花異譚』『紅殻町博物誌』

いずれも文学性を有する傑作です。

『狭き門』『罪と罰』『婦系図』などの傑作の文学作品にも匹敵しうると思っております。

世間の荒波に揉まれながらも、それでも、幼き頃に親しんだ「童話」の世界の灯を大切に抱き続けているようなーー祈り。

そのような祈りが籠められているような作品に惹かれます。
すなわち、『Forest』『徒花異譚』は、言うなれば、大人になった子供たちに贈るお伽噺と呼んでも良いかと思われます。
いずれも、大石竜子先生が原画を務められているというのも象徴的で、大石先生の同人誌『MERIA』の万華鏡のようでいて仄かな切なさを秘めた童話世界を見れば明らかなように、シナリオの星空めてお先生、海原望先生は当然として、大石先生の唯一無二の才能が大きな役割を果たしているのではないかとも感じます。

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※以下、『徒花異譚』のネタバレを含みます。必ず鑑賞してからお読みください。





白姫さんに、「頑張ったね」と声をかけてあげたい。

読後、そのような思いが込み上げてきました。

やるせないこと、やり切れないこと。

抗いようのない世間の荒波に揉まれ、幾度も砕けそうになりながらも、それでも、幼き頃に親しんだ「童話」の世界の灯を手放さず、荒波の中でも、胸の奥底に大切に抱き続けているようなーー祈り。

そのような感覚、ありますよね。
それは、おそらく、「感受性」という名の、童話の世界と味気ない現実との橋渡しをするための架け橋であり、
やり切れない現実に摩耗した私たちの心の中の「最後の砦」とも呼べるものなのでしょう。

そして、それは、本作を本当の意味で味わい尽くすための切符でもあるような気がいたします。

ですから、白姫さんの心の軌跡、その押し潰されそうな苦しみと、それに対峙してなお、幼き頃の大切な思い出を一縷の蜘蛛の糸として最後まで離さず、握力の限界にあってもなお手放さず、文字通りの最後の瞬間まで、心の内に守り続けたこと……。
その思いこそが、胸を打ちます。
私は、三回程涙ぐみ、一回落涙いたしました。

そして、このような物語を描き切ることができる作家は、星空めてお先生と海原望先生と大石竜子先生の他には、私は寡聞にして知りません。
もっと評価されて良いと思っております。

ーー戻れないあの場所を。

この作品に出会えて良かった。
ありがとうございます。

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