二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第四話 ミレーネ(3-4)
翌日初夏の花々が咲き乱れる王宮の庭園で、ミレーネは母のフロリアと午後のお茶を楽しんでいた。
ミレーネの白い肌に溶け込むような淡いピンクのドレス姿に、王妃フロリアは目を細めて言った。
「ミレーネはもう十五歳になるのね。美しくなったわ」
「あら、お母さま、私がお母さま似なのを承知で褒めていらっしゃるの?」
「まぁ、ミレーネったら、お口もずいぶん成長したのね」
母の笑い声につられて、ミレーネも思わず噴きだした。
娘が屈託なく笑う姿にフロリアが慈愛に満ちた表情を浮かべる。
「ミレーネがそんな風に明るく笑うのを、久しぶりに見た気がするわ」
「お母さま……」
「ごめんなさいね。私があなたの他に王子を生んでいたら、あなたは人々の思惑に惑わされることも無かったでしょうに」
「そんなことおっしゃらないで、お母さま。もっと私が自分に自信を持って世継ぎらしく振舞えれば、お父様とお母さまにご心配をおかけしなくても済んだのに、私こそ不甲斐ない娘でごめんなさい」
会話が途切れたのを見計らったように、アイリスが王妃にメルシアの来訪を告げた。
普段フロリアは王妃として忙しく、こうしてミレーネとテーブルを共にするのは珍しい。ミレーネはできればもう少し母と娘の時間を過ごしたかったが、フロリアがメルシアを連れてくるようにアイリスに指示を出してしまった。
すぐに鮮やかな緑色のドレスを着たメルシアが、侍女を従えて歩いてくる。ドレスの色が栗色の髪と赤い瞳を引き立てていて、満面の笑みを称えたメルシアは輝くように美しかった。
「陛下、ご機嫌麗しく存じます。お茶会の邪魔をして申し訳ありません。でも、ようやく手に入れた幸運のお守りをどうしてもお渡ししたくて、急いで参りましたの」
メルシアの侍女がかごから取り出したものを、テーブルの上に並べていく。焼き菓子やバラの花を象ったシュガーと、フロリアとミレーネそれぞれに宛てた封筒。メルシアが語った幸運のお守りは、多分この封筒に入っているのだろう。
フロリアがメルシアに菓子の礼を言って席を勧めると、侍従が席を引く。メルシアは遠慮もせずに腰かけた。
「メルシア、お菓子とバラ砂糖はいただくけれど、幸運のお守りというのはどんなものかしら?」
「実は方々の国を旅している大魔導士さまがお隣の国にいらしたと聞いて、遣いをやって念術を封じ込めたお守りを作っていただきましたの。噂では子供を望む人が、その幸運のお守りのおかげで赤ちゃんを授かったり、魔力量の少ない方がお守りに願って、治療魔法を極めたりしたそうです」
ミレーネはメルシアの話に目を輝かせた。噂の事例は母と自分に当てはまるから、余計に期待が膨れ上がる。
とはいえ魔導士の身元がはっきりしない以上、目の前に置かれた封書の中身が安全かどうかは判別がつかない。
逸る気持ちをなんとか抑えながら、ミレーネは小さなころに叩き込まれたルールを口にした。
「まぁ、そんなことを可能にする魔導士さまがいらっしゃるのね。でも私たち王族は、魔法のかかったものに容易に手を触れてはいけないわよ」
「その規則なら言われなくても分かっているわ。だからハリアー先生や、他の魔術師たちに厄介な気が立ち込めていないか調べてもらったの。全員が安全だとおっしゃって、王妃さまとミレーネのために、二通の証明書に署名を認めてくれたわ」
メルシアがかごの中に入っていたもう一通の封書を取り出して見せた。
そこには確かに、複数の魔術師のサインと害のないことを証明すると書いてある。
ミレーネが手を伸ばそうとすると、フロリアが待ったをかけた。
「魔術師たちを信用しないわけではないけれど、私も一応グリーンフィアの王女として、身を守るために小さい頃から毒性や邪気を感知する術を教えられたの。試してみるわね」
「お母さまの祖国は、治癒魔法に長けているのですよね。そのうえ害になるものを感知できる魔法が使えるなんて、すごいわ」
フフフと笑いながら、フロリアが証明書に手を翳して本物のサインかどうかを探る。
ミレーネは固唾を飲んで、証明書と母の手を見つめた。
「サインに邪気は感じられないわ。でも……」
フロリアが言い淀むと、メルシアが不安気にフロリアを窺い、どうかしたのかと尋ねる。少しの間が空いたあと、フロリアはなんでもないと首を振った。
フロリアは二枚の封筒にも手を翳し、邪気の有無を検査し終えると、ミレーネに中身を見てみましょうと促した。
ミレーネの封筒には魔術師の持つ杖を象った白い紙が入っていて、フロリアの封筒にはゆりかごの形の白い紙が入っていた。
次のお話をお楽しみください(*´▽`*)
二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第四話 ミレーネ(4-4)|風帆美千琉 (note.com)
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