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歯を削らない抜かない方が良いという誤解、それを誤解したままのエセ予防歯科、あるいはDMFT等の指標に依存することの危険さについて

今回のお話はこんな内容です。

・削らない、抜かないこと自体は正義ではない。
・削らない=予防、と勘違いしている歯科医師や歯科衛生士が多いが、これは全くの誤り。
・ゆえにDMFT等の指標による成績の評価と管理は、必ずしも有効なものではない。
・以上のことを理解するだけで一流の歯科医療従事者になれる。


それでは話していきます。


歯を削るのはどうして?

歯を削るのはどうしてなのか考えたことはあるでしょうか?

虫歯ってC0,C1,C2なら、別に痛みはないし、ご飯を食べるのになんら支障はない(ことが多い)ですよね。

それなら別に治療しなくてもいいと思いませんか?
だって患者さんは何も困ってないんだから。


でもC1なら半分くらいの歯科医師は切削介入するでしょうし、C2ならほとんどの歯科医師が切削介入しますよね。

どうして?

なんのためですか?


キーワード1 可逆性と不可逆性

C0を削らない理由の一つに可逆性があります。

C0はいわゆる脱灰の状態なわけですから、適切な環境を構築できれば再石灰化によって治癒ができる見込みがあるわけです。

切削介入してしまうと二度と元に戻らない。

だからC0で切削介入しないことには、ほぼ議論の余地がないわけです。


キーワード2 リスクの低減

さてC1, C2で切削介入する理由はなんでしょうか?

一度切削してしまうとその歯は二度と元には戻りません。
しかも今は歯が痛くないんだから、別に削らなくても患者さんは何も困りません。

なのに、どうしてそんなことをするのでしょうか?


それはう蝕を取り除くことによって、患者さんのリスクが下がる(と思われる)からです。

その虫歯が進行する確率が下がるから。それによって最終的な歯の余命が改善されるから。
その結果として患者さんの健康が維持される確率が高まり、患者さん自身の余命とQOLが改善されると思われるからです。


「口腔内にう蝕がある状態で、う蝕が進行するリスク」

「う蝕が除去されその代わりにCRやインレーが詰めてある状態で、新たにう蝕が発生するリスク」

これらを比べたとき、どちらの方がリスクが高いのか。

もちろん切削や形成をする段階でう蝕以外の健全な部分もある程度削らなければならないことも考慮した上で、どちらの方が最終的に寿命が長くなるのか。


それらを考え、前者の方が良ければ削らないし、後者の方が良ければ削る、というのが切削介入是非の判断です。


削らない方がはるかにリスクが高いのであれば、削らなければいけないんです。


だから削らないことが正解ではない

以上を踏まえて、エセ予防歯科の勘違い先生の言葉を思い浮かべてみましょう。

「削らなくても進行しないから大丈夫!」
「ほらこんなに深い虫歯だけど進行してない! だから削らなくて正解!」
「こうすれば削らなくてすむ!」

これらは典型的な勘違いだと理解できますよね?


切削もフッ素塗布も、目的はう蝕進行(あるいは発生)の抑制であり、歯の機能低下・喪失の防止であり、健康の維持改善であり、余命の改善であり、QOLの向上です。


例えばこんなケースが考えられます。

切削せずに経過観察する → う蝕進行のリスクが高いので月一でフッ素塗布と経過観察

切削 → う蝕のリスクが管理できているので、3ヶ月ごとのメンテ


歯を削らないために、ずっと「いつまた虫歯が進んでしまうか分からない」心配な状態のまま、本来であれば3ヶ月に一回しか来なくていいはずの歯科医院に毎月訪れる。

……。

なんのため??


患者さんのQOLと余命のための歯科医療のはずが、余計な心配事を増やし、時間を奪い、お金を奪っている。完全に本末転倒ですよね。


エセ予防歯科の削らない主義はむしろ「反」予防歯科

したがって、エセ予防歯科で削らないことを目的化している一部の歯科医師達は、ただ削らないという自らの勲章を手に入れるために、患者さんの命を奪い、幸福を奪う、医療従事者の風上にも置けない連中だと言えるでしょう。

実は、ただ削らない、という考え方はむしろ「反」予防歯科です。

なぜなら、削らないことによって、う蝕が進行するリスクが高い状態を放置しているからです。

カリエス予防とはつまりカリエスが進行したり発生したりすることを予防する、そのリスクを下げること。
彼らはむしろリスクが高くなる行為を選んでいるわけですから、完全に「反」予防ですよね。


適切な基準できちんと削って詰めることで、カリエスリスクを下げていくことこそが、う蝕の予防であり、予防歯科なんです。


抜かない、にも注意

削らない主義と同様の危険性を持つものとして、抜かない主義もあります。

患者さんに必要なのはQOLであり余命であり健康であり口腔機能です。


昨今患者さんの間でも「歯を抜く歯医者はヤブ医者である」という誤解が広がっており、それを恐れてなんでもかんでも抜かないという歯医者さんも少なくありません。

でも無理に歯を残すことは例えばこういった問題があります。

・この歯を抜かないといつ痛みだすか分からない。痛みだしたらすぐに処置してあげられるか分からない。
・この歯が痛みだしてから抜くとなると、入れ歯の作り直しが必要になってしまう。そうするとしばらく入れ歯なしで食事しなければいけなくなってしまう。もし先に抜いて即時義歯を作ってあげれば、その日からすぐに入れ歯を使って食事ができる。
・歯が残っていることで入れ歯の安定性に障害が出ている。この歯を抜けば(あるいは残根にすれば)、入れ歯の安定性が大きく向上し、患者さんのQOLが大きく改善することが見込まれる。
・重度の歯周病だが抜歯せずにギリギリまで歯を残している。それにより、骨吸収が進行し顎堤がなくなり、結果として入れ歯を安定させるのが非常に難しくなってしまった。(適切なタイミングで抜歯していればそんなことはなかったのに)


繰り返しますが、患者さんに必要なのはQOLであり余命であり健康であり口腔機能です。

「抜かない」という勲章を手に入れることではないのです。


DMFTは取り扱い注意

C治療やカリエス予防の指標としてDMFTが使われることがよくあります。

これは何本の歯が切削されたかを示す指数ですが、これも適切に使わないと問題を引き起こします。


なぜなら切削介入の基準は歯科医師によって異なり、削らないこと自体が正義でない以上、DMFTが低いことがむしろ
「適切な切削をしていない」=「患者さんの命を奪っている」
を示している可能性があるからです。


したがって、

「A医院よりB医院の方がDMFTが低い」
⇒「A歯科医院よりB歯科医院の方がカリエス予防ができている」

ということは言えません。


DMFTは医院同士の比較のために絶対的な指標として用いるべきものではなく、自分の医院の変化をとらえるときに使うべきものです。

切削介入の基準を変えていないという前提のもとで指標を用いる必要があります。


これは、抜髄の数や抜歯の数を管理する場合にも同じことがいえるでしょう。


これであなたも一流の歯科医療従事者になれる

以上、私の個人的な感覚としては、「このくらいのことは歯学部の学生のうちに理解してるよね。どんなに遅くても歯科医師やって1年も経てば当然に。」くらいのつもりでいたのですが、学会の先生方やTwitterの先生方と話している中で、どうやらこのレベルのことが理解できている歯科医療従事者は本当にごく一部だということに気づきました。

ほとんどの人は削らなければえらいと思っているし、抜かないことが常に正しいとしか思っていません。


今回語ったことは、患者さんの健康の実現のため絶対に理解しなければならないことです。これが理解できていなければ、かなり多くのケースで患者さんの健康を害していると思われます。

ぜひ今回の内容をきちんと理解し、日々の臨床に役立て、患者さんの健康を守って頂ければ嬉しいです。

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