見出し画像

IDAHOの日にオランダでは。

数日前に書いたものですが、こちらにも置いておこうかなと思います。 

 5月17日は何の日かご存知ですか? 毎年この日はInternational Day Against Homophobia, Transphobia & Biphobia、日本語では「国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日」と呼ばれる記念日です。これはLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスセクシュアル)の人たちに対するフォビア(恐怖や嫌悪)に反対し、LGBTの権利侵害に対する認識を広め、関心を高めることを目的とした記念日で、今日では世界の130もの国で講演会、デモンストレーション、セミナー、討論会、展示会など様々なイベントが開かれています。2004年にこの日が制定された時はInternational Day Against Hompphobiaとして始まり、略してIDAHOと呼ばれました。のちにTransphobiaとBiphobia が加わり名称が長くなった後も一般にIDAHOと呼ばれています。5月17日がIDAHOの日に選ばれたのは、1990年5月18日に世界保健機関(World Health Organization, WHO)の国際疾病分類の精神疾患から同性愛が除外されたことを記念して後世に伝えるためです。今ではちょっと考えられないことですが、1990年まで同性愛は精神疾患の一つで同性愛者は病人であると考えられていたのです。現在でも世界37の国では同性愛が法律で禁止されていて同性愛者であるだけで刑罰の対象になってしまう所もありますが、それらの国でも文字通り命がけでIDAHOのイベントを活動家の人たちが開いているところがあるそうです。
 ご存知のようにオランダはLGBTIQと総称して呼ばれる性的少数者の解放や権利獲得に関しては先進国です。2001年には世界に先駆けて同性婚が実現しました。AmsterdamのGay Prideは世界的に有名で、アムステルダムのイベントとしては国王誕生日に次ぐ大規模なもので多くの観光客がヨーロッパのみならず世界各国からやって来ます。ゲイやレズビアン、トランスジェンダーであることをカミングアウトして活躍している芸能人、政治家、スポーツ選手などの知名人も多いです。テレビを見ていると一般人の同性カップルがごく自然に視聴者参加番組に登場し、ヘテロセクシュアルのカップルと全く変わらぬ扱いをされています。このようにLGBTが社会的に広く受け入れられていることも、大麻使用、売春、安楽死の合法などと並んで、自由・寛容・パイオニア精神というオランダのイメージに貢献しているところが大きいのではないかとさえ思えます。
 そんなLGBTに優しい国・オランダですが、LGBTに対する偏見や差別が存在しないのかというと、それは全く違うのです。
 5月17日IDAHOの日に、オランダのTVニュースではショッキングな映像が流れました。オランダの野党D66の党首Rob Jetten氏はゲイとしてカミングアウト済みの若き政治家です。彼は「IDAHOは必要か?」と疑問を呈する人たちへの回答としてTwitterにショートビデオを投稿しました。
https://twitter.com/RobJetten/status/1261926175066091520?s=20 
このビデオでJetten氏が読み上げているのは彼に対する差別的な中傷のツイートの数々。聞くに堪えない汚い下品な言葉でJetten氏がゲイであることをからかい、蔑み、嘲笑い、無意味な挑発をするツイートの数々です。Jetten氏は激高することも無く、スマホを見ながら落ち着いて一つ一つのツイートを読み上げ、反論する代わりにカメラをまっすぐ見つめます。その強い視線から感じられるものは何でしょう?このビデオは再生回数が一日で約50万回に達しました。昼のニュースでも、夜のニュースでも取り上げられ、オランダの主要新聞各紙にも取り上げられました。彼のTwitter投稿のすぐ後からオランダの他の政党党首や大臣を含む政治家たちがJetten氏に連帯をすぐに表明したのが救いと言えば救いで、オランダらしいバランス感覚と最近日本でよく言われる「スピード感を持った」対応であると思いました。
 私自身も、オランダみたいな国でGay Prideはいらないんじゃないの?Amsterdam Prideは商業的なお祭りに成り下がってしまって、プライドなんていう呼び方は違うんじゃないの?などという意見をよく目にするし、実際に言われたこともあります。でも、こんな誹謗中傷が存在する限りIDAHOやGay Prideは自由で寛容、差別がないと信じられている国・オランダでもまだまだ必要なのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?