天職だと感じた瞬間

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#天職だと感じた瞬間

私の母親はバイクで赤信号を見落として、青信号に変わった先頭車両にはねられて信号機の高さまで上に飛ばされて落ちて亡くなりました。

相手の保険代理店が事故直後にうちを訪ねてきて「うちは悪くない。あなたのお母さんが信号無視したから……」と言っていました。

私は事故の原因は全く知りませんでしたが、母親が死んだのは事実でした。
大切な家族を失って心がどうにもならなく落ち込んでいる時に、この代理店の言葉は怒りの心に刺さりました。

悔しくて悔しくてネットで交通事故の事例を検索しました。
しかし、信号無視は過失100%という答えしかありませんでした。

そんな時、交通事故の示談交渉をする仕事が目の前に出て来ました。
自分と同じように悔しい思いをした被害者を助けてあげたいと応募しました。

あれからもう30年もこの仕事をしています。
嘘をついて痛くもないのに病院に通って慰謝料を稼ぐ人
自分は被害者だと無謀な請求をする人
それは私が想像していた以上の人間の欲望や被害意識を主張するものでした。

高校生の子供さんが事故に遭い、その示談に行った時でした。
私の母親は交通事故で亡くなっているという話をした時に、お母さんが私に言いました。
「そんな辛い思いをしたのであれば、被害者の気持ちが誰よりもわかるはずです。でもあなたは私たちの気持ちを聞く耳すら持たずに、机上の対応をしただけじゃないか」
そうです。私はいつしか保険会社の人になってしまい、被害者の気持ちすら理解せずに解決さえすれば良いと思う人になっていたことを反省しました。

事故はもちろん被害者は被害者だが、事故を起こした加害者もまた被害者であるのです。
被害者だからと何かと要求する人を何人も経験して、被害者を敵視する自分が生まれて来たのだと思います。

本来は自分の契約者に寄り添って主張するのが仕事なのだけど、客観的に事故を判断して、自分の契約者が悪ければ悪いと過失を説得するようになりました。

冷静に判断する。
自分の契約者にも怒る。
事故を解決した後に「ありがとう」と契約者に言われる事はある。
でも、被害者に「あなたの保険に入りたい」と言われた時は本当に嬉しい。

他損保の人と仲良くなって色々と話す時。
この仕事、転職でしょ!と言われることが多い。
交通事故なんてない方が良い。
でも、痛い思いをする被害者に寄り添ったり、怪我をさせてしまった加害者に寄り添ったり……
今はそれをできる後輩を育てています。

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