第15回/SMSとカマダ

早いもので、気が付けば欧州フットボールのカレンダーは2023-24シーズンに向け動きだした。
各国既に開幕戦を消化。
順調な仕上がりを見せ、好発進を切ったチームもあれば
先行きが不安なチームも存在する。
一方で移籍市場は例年のごとく8月31日まで開いており
残り数週間のうちで駆け込みでの移籍も予想される。


フットボールファンであれば周知の事実であるが
今回の移籍市場で猛威を振るったのはサウジアラビア勢であった。
多くの大物が活躍を中東の地に求めた。
代表的な選手をざっとまとめると。。。

・ロベルト・フィルミーノ リヴァプール→アル・アハリ
・サディオ・マネ     バイエルン・ミュンヘン→アル・ナスル
・カリム・ベンゼマ    レアル・マドリード→アル・イテハド
・リヤド・アフレズ    マンチェスター・シティ→アル・アハリ
・マルセロ・ブロゾヴィッチ  インテル・ミラノ→アル・ナスル
・エンゴロ・カンテ    チェルシー→アル・イテハド
・ジョーダン・ヘンダーソン リヴァプール→アル・イテファク

極めつけは
・ネイマール      パリ・サンジェルマン→アル・ヒラル

紹介しきれない選手も多数いる。
本当にここ1,2年のサウジ勢の羽振りの良さは脅威だ。
そしてこのサウジの猛威が、愛するマイチームの愛する選手を襲った。


2023年7月12日、ラツィオ所属セルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチ、アル・ヒラルへ移籍が決定。
※以下、名前があまりに長すぎるためセルゲイまたはSMSとする。

すべての能力が規格外だったSMS。今は長年チームを支えてくれたことに感謝するばかりだ。
https://sportsport.ba/fudbal/sergej-milinkovic-savic-ne-korak-od-prelaska-u-manchester-united/326995


色々な意味で個人的に衝撃であった。
今までも移籍するタイミングがあったのに、結果長年残ってきたので
引退・あるいは引退間際までチームに残る選手だと思っていた。
それがこのタイミングでの移籍。
サウジという行き先・30歳前という若さ・
ついぞラツィオ以上のビッグクラブで活躍する姿を観ることが出来なくなったこと(可能性はもちろんゼロではないが、ここからのキャリアの巻き返しは難しい)。
何より、彼がチームから居なくなる寂しさ、大きな戦力ダウンを考えると
複雑な気持ちになった。

選手の移籍は難しい。
選手個人の問題、クラブの問題。様々な要因が絡むので
本来外の人間があーだこーだ言う問題ではない。
SMSの移籍に関しても、ラツィオは4000万ユーロ(約62億円)の移籍金を獲得したと言われている。
クラブの懐は潤ったし、
数年後を振り返ったときにここがクラブの更なる成長のターニングポイントと思える日が来るかもしれない。
しかしながら、いちサポーターからすると、彼の姿を観ることが出来ないのは寂しすぎる。


筆者が思うSMSの魅力は
「プレーの半径が他のプレーヤーに比べて数メートル広い」こと。
もちろん身長の高さが大きいせいもあるが
身体のしなやかさ、しなやかさに起因する「無理がきいちゃう」プレー、足下の技術がよりプレー範囲を広げていた印象がある。
それが攻撃にも守備にも効いていた。
一人でゴールを決めてしまい、一人で何人もかわし、
時には一人で何人もの相手を守備で食い止める。
「それ届く!?」「それ間に合っちゃうん!?」と驚かせられることが度々あった。
本当にプレミアリーグあたりで彼が無双する世界線が観たかった。


さて、ここまでさんざんセルゲイの退団を悲しんだのだが
終わったことを嘆いていても仕方ない。
今シーズンについて期待する内容に触れて終わりたいと思う。

SMS以外主力選手の退団はなく
マウリツィオ・サッリが指揮を執る体制は継続。
それだけにSMSが抜けたポジションに誰が収まるのかが注目だ。
昨年から所属するマティアス・ベシーノか
今夏すったもんだの結果加入した我らがダイチ・カマダか。
同じく今夏ユヴェントスから加入したニコロ・ロヴェッラか。
筆者は加入時期の遅かったカマダ、ロヴェッラではなくベシーノの序列が高いのではないかと考えていたが、開幕戦は見事カマダがスタートのチョイスとなった。

開幕戦のスタート。
SMSのところにカマダ、カザーレの出遅れによるパトリック以外
去年から大きな変化はなし。
チーム公式Instagramより

カマダについては
攻撃部分での不安はあまりない。
代表やフランクフルトで見せていたようなヌルヌルドリブルは
おそらくイタリアの地でも通用するのではないかと考えている。

問題は守備だ。
ラツィオの守備はある程度組織化されているので
「個の能力で守る」という場面が多くはないが、
それでも局面では走力や身体の強さが求められる部分が出てくる。
ルイス・アルベルトやダニーロ・カタルディといった中盤の選手はポジショニングや読みに優れる一方、走力や強さでは分が悪い。
退団したSMSはその足りない部分を1人補っていた。
ただ、カマダも身体能力に優れた選手という訳ではないので
そのあたりはどうなるか。
守備のタスクだけを考えると、現時点ではベシーノやロヴェッラに軍配が上がるような気がする。
そもそも組織化された守備をカマダが早い段階で消化できるか。
フットボール文化・言語の異なる地での挑戦は並大抵のことではない。

とはいえ、加入早々にも関わらず先発で起用されたところをみると
間違いなくサッリにとって大事な選手として考えられていると思う。
今年はチャンピオンズリーグにも出場するラツィオ。
チームもカマダも国内、欧州の舞台で飛躍することを祈っている。



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