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ソウルミュージック.... 読書家 渡辺聰

句集「人」p43

ソウルミュージック銀杏を割つてゐる
                横山香代子

Haikureation(俳句✖️創作)

ソウルミュージックとは、広い意味でのプロテストソングである。プロテストソングとは、社会の中の不公平や不正に対するメッセージソング。黒人がプロテスト(抗議)したのは、不当な社会環境とそれを支えている人間の意識に対してである。そして、それは彼らの肌が黒いという理由に拠るものだ。

公民権運動の中心であったキング牧師が暗殺された後、ジェームス・ブラウンは、髪をアフロヘアにし、声を上げた。「黒人は、美しく、誇りある存在だと叫べ」。J.B.は、怒りを強いファンクビートにのせて、不当な差別・暴力・人権侵害と歌った。偏見という、硬いナッツの殻を破るために。その中にある「自由」を手にするために。

しかし、自由を求めるソウルミュージックの方法と魅力は、怒りとシャウトだけではない。社会や他者を覆う殻を破る方法が、一つではないのと同じだ。オーティスは、哀しい心を切と、サムは、日差しのような明るさで、アリーは、波打つリズムと、神から与えられた声で、マーヴィンは、慈愛に満ちた呼びかけで、彼らは歌う。やがて、人と自分の間の殻は、ふやけ、とろけ、熟し、割け、ひび割れる。彼らのオリジナルな音楽を聴けば、人々は愛し合いあい、コミュニティを信じたい気持ちが、自然にわいてくる。

私の手には、銀杏の実がある。白亜で流麗で小ぶりだが、強く握りしめれば手のひらに食い込む。そのたびに、くじけ、さびしくなり、がっかりし、あきらめそうになる。だけど、彼らのソウルがこの胸に響く限り、私は今日もプロテストする。自由になるために。

              読書家 渡辺聰
季語は銀杏。(  秋 )

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