昨日手放した髪飾りは未だに私の頭に飾られて見えるらしい。

2021年1月1日、僕はこの小説を書く。君の綻びから零れる涙に、これまで塞き止めてきた強さを称え、この小説を書く。そして、心が次第に枯れてしまわない為に、君を傷つけられるようにこの小説を書く。

君が好きだ。

❋❋❋

私は、街の外れにある館で暮らしている。父は王国 クラージャ で、国王 ラ・ミサトス の、第一秘書をしている。母は、召使いを育てる学校を運営している。私は、クラージャ建国250周年の建国記念日10月23日に産まれた。母の元で育った優秀な何人かの召使いは、幼い頃から私の面倒を見てくれていた。しかし、召使いと言えど、完璧では無かった。少し欠けている所があるのが、愛しかった。私はその中で、もみクシャにされながら、様々な良い待遇を受け生きてきた。父はとても忙しそうにしていた。街の中心に住んでいる国王 ラ・ミサトス は、私の父をとても大切にしていたそうだ。それは、国王から、多くの頼み事を受けるという事でもあった。父はよく、国王の事を、ミサト様 と呼んでいた。私はそれなりに申し分なく育ってきたのだけれど、もう少しだけ父と仲良く出来たらなと思う事がある。たまに父と話す時、私は父と上手く話せない。何故だかとても他人のような気がしてしまう。でも父は、とても頑張っていた。小さい頃、父の書斎でお話を読んでもらった事は、とても良い思い出だし、ニュースの記事で、父の活躍を目にする事もある。いずれにせよ私は、ある王国の中で、その中心に近い人間の娘として、多くを求められながら、大切に育ってきたのである。でも、私は気付いていた。私に待ち受ける運命というものに。

まず、私の小さい頃の話をする。私は今22歳で、定職には着いていない。ヴァイオリンやピアノが得意で、たまに頼まれて弾いている。また、お菓子作りが好きで、家でよく作って、召使いをおもてなししている。お友達の研究者とは、定期的にお話をする機会を設けている。私はいつもアイデアを与えて、議論をする。その為の勉強等をしばししている。多くの知り合いは、小さい頃から私と関わって来たのである。

2歳9ヶ月程だったある日、ひなたぼっこ日和だったので、私は本を持って、噴水広場近くの木陰で読書をしていた。絵の入った子供向けの本だった。広大な景色の中で、私はぽつんと座っていた訳だけれど、孤独は何も感じなかった。私の家には、様々な人が出入りする。本などが沢山あった為、いくらか図書館のようにもなっていて、また、様々なレア物を父も母も集めていたので、それを目当てにするなど、限られた人だけだけれど、好きに出入りしていた。私の家は王国のオアシスのようになっていたと思う。ある、ヴァイオリニストが、本を読んでいる私に話しかけてきた。

「ごきげんよう。ルサ・ニーナちゃん!」

「&$¥*#'$げん'¥#う。ターマイさん!」

私は人の名前だけははっきりと発音できた。

「なんのご本を読んでいるのかしら?」

私は本を閉じて、ターマイにお願いした。

「その楽器はヴァ@¥$リン?夏らしい曲が聴きたいわ!」

そしてターマイは、私の為に曲を弾いてくれた。 「アブラゼミの焦り」という曲だった。

「ねぇ、ニーナちゃんも、ヴァイオリンやってみる?」

「うん!やる!」

そのやり取りで、私はヴァイオリンを始める事になった。

今、様々なことの中で最も好きなのは、ヴァイオリンを弾くことだ。ターマイは、世界の一番大きなコンクールで優勝経験もあった。ターマイは越えられないけれど、ターマイのような大人は、小さい頃からの理想だった。それは、ヴァイオリン以外の様々な印象に抱いたものだったのだけれど、(母が育てたどの召使いよりも上品だった。)それは、ヴァイオリンの音色に現れていたように思う。

お菓子作りは、ヴァイオリンの次に好きである。これは、母から教わって、そのうち、王国の特別職の菓子職人 モリーヌ と共に作るようになった。たまに失敗してしまう時もある。また、そんなに手の込んだものは作らない。長くても作業に割く時間は、1時間くらいで、後は冷やしたり、焼いたり。最近は、モリーヌは忙しいらしく、一人で作る事もある。お菓子作りは、モリーヌと作るか、一人で作るかで、他の人間とは作りたくないのである。だいたい月一で、作って、召使いへ、一ヶ月ありがとうと感謝の気持ちを込めている。お菓子作りは、6歳の時、初めて作った。モリーヌとは、12歳の時に出会った。

ピアノ、及び、研究者との繋がりに関しては、8歳の頃から、ピアノと学問が好きになり、その内に多くを習得した。テリ・モントーユ学院では、ピアノと学問は必須の科目で、だいたい私は上位の方にいた。才能のある子供や、上流階級の子供が多く居て、競争率は激しかったと思う。だけれど、ピアノや学問が肌に合わない子もいて、そういう子は、なんだか気の毒だった。また、あまりに成績が悪い子は、よく、虐められていた。それぞれの科目で生徒同士やり取りする機会が多かった為、沈黙が多くなる子もいた。私はそういう生徒が嫌いでは無かった。どう頑張っても格差は消えない。だから、世界はこういうものなんだと、ただ思っただけ。私は多分、相対的に得をして生きてきたかもしれない。徳があるかどうかは知らないし、特別かどうかも知らない。

そんなような過去で、私はある意味代わり映えもなく、変な言い方だが、上流階級を生き続けてきた上流階級だった。

さて、私は女の子だから、特に恋愛という物への憧憬は男の子よりはきっと多かったのだと思う。18歳の夏、私はある研究者と出会ってしまった。

その男性は、神経回路が働かない瞬間に幻覚幻聴が発生するという仕組みに目をつけていた。それは端的に、電気信号はこの世の全てではないという事で、機械を根本から否定していた。彼が言うには、私達は私達の認識を疑わずに済むように生きなければならない。という事だった。世界は、機械化されていて、早速人間は、肉体を捨てようとしている。彼はまるでその逆で、肉体に可能性を見出していた。私は話を聞いて、技術と肉体を明白に区別できると感じた。人々は、どんな技術があっても生きている価値を失わずに済む。技術と共存できるという事だとも思えた。

彼の容姿はそれほど優れていなかった。いかにも泥臭く勉強や思考を続けている野性的な男という感じだった。しかし、かっこよかった。野性的な雰囲気には、どうしても惹かれてしまう。私を殺してくれるのは、彼しかいない。そう強く感じたのだった。

私は彼の事を、母に話した。母は楽しそうに聞いてくれた。

「彼の思想は私は理解できないけれど、あなたがそんなに良く思うならきっといい人なんじゃないかしら?だけど、一つ、私とパパに必ず会わせなさいね。いい?」

「分かった。パパはいつ、帰ってくるの?」

「そんな話ならいつだって来てくれるわよ。」

その頃からの私は大きく変わっていったように思う。何故だか、自分を大切にしなくなってしまった。精神的に誰かに依存してしまったからかもしれない。そして、彼の考えを理解しようとしたからかもしれない。私は、優秀で可愛がられるお嬢様から、野性的な研究者へ身を捧げる婦人になった。そうやって自分を認識した。

それはきっとなにかに悩んでしまったからかもしれない。

その研究者は、ジョスタックという名前だ。私は親しみを込めて、ジョスと呼んだ。何回かやり取りをしている内に、彼から、上記のような研究とその価値を学んだ。彼の熱意は、何回かやり取りしているうちに素晴らしいものだと感じた。彼にとっての結論がおおよそ出た頃、私は彼の事を確信を持って好きになった。そして、

「とても素晴らしい研究だと思うわ。そして、あなたの熱意にはかねてから惹かれていたの。あなたと個人的に会っても良いかしら?カフェでまったりとお話したいの。もちろん、研究に関しても沢山話は聴きたいけれど、もっとたわいもない事についても話してみたいわ。あなたが良ければ。」

と、伝えた。彼は、

「構わないよ。」

そう言って、私と会う約束をした。

私の頭の中はジョス一色だった。ジョス狂とでも言える。

半年ほど、私はジョスとデートを重ねた。そして、私とジョスは正式にお付き合いを始めた。ちょうどその頃、私の両親とジョスタックは、二度ほど会っていた。

私とジョスの事は、公にはしなかったのだけれど、私の多くの知り合いに、伝わってしまった。その頃私は、ジョスの事で頭がいっぱいだったからかもしれないけれど、多くの私の知り合いからは、厳しい言葉を頂いた。まだ、若かった。恋愛とそれ以外を両立する器用さは、無かった。

20歳になった頃、私を祝福するパーティが開かれた。多くの知り合いが参加し、私は挨拶をした。ピアノを弾き、語らい、抱負を胸に秘めた。当然、ジョスも来ていた。

多くの刺激の中、私はある約束を、誓った。

ここにいる皆を大切にする。ここに居るみんなと良い関係で居たい。

ジョスタックへの情熱には慣れた。逆に、ジョスタックに出会う前の暮らしが、強く鮮明に価値を持って、光っていた。そんな主観はきっと、的を絞る必要が、無くなったからなのかもしれない。多分私とジョスはとても安定した関係にあった。私の誕生日の日、私は母や父に感謝の言葉を述べ、手紙を渡した。

大人になった私は、ジョスとの恋の行方を気にしながら、今まで通り様々、集中して取り組んだ。そして、母や父との時間を作ろうと画策した。召使いは、一度全員、新しくした。様々、転換点を迎えていた。

それから、新しい事は特になく、器用に生きて、2年が経った。それが、今である。

私は、もう時期、ジョスタックと結婚する。私は家を出ていく。ジョスタックは、決して裕福な家庭では無いけれど、私はそこへ嫁ぐ。ジョスタックの両親とも会った。不安は募るけれど、大丈夫だろう。

私の生活は、もう時期一変するかもしれない。私はジョスと暮らすから、今までの環境にさようならしなければならない。

何が変わるのか分からないけれど、多分きっと、私を飾っていた髪飾りがジョスに贈呈されてしまうのかもしれない。

ユリウス・ニーナになった私は、もう別人だ。私はむしろ、過去の私に執着しない。もう、新たな世界で生きていく。

だってあの時の誓いは、別れを告げる為の、準備だったから。あと少しの我慢だったから。

絶対に、好きな人と羽を伸ばして暮らしていた方が楽しい。早く私達を、永劫の参画から解放して!過去の学友達を振り返って、そう思った。

ユリウス・ジョスタックへ。

全てあなたへ捧げます。もう、苦しい思いをしなくていいよね。愛しています。本当に。永遠に二重丸な関係で、私が幼少期から受け取り続けてきた愛を、あなたへ。 

お父さん、お母さん、私を育ててくださった、執事始め、素晴らしき皆様、本当にありがとうございました。そして、さようなら。

❋❋❋

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

皆様、今年一年が、素晴らしい年になるように、様々、応援しています。本当です。

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