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「レンブンラント」と「フェルメール」

【絵画に見る点光源と面光源】

「ライティングの基本は太陽」
と言うフレーズは、ポートレート写真撮影で照明機材を使い始めると、どこかで必ず耳にしたり目にしたりする、とてもポピュラーなフレーズ。

最も分かりやすい説明としては、ピーカンの晴れの日は点光源(太陽)だからくっきりと影のつくコントラストの強い写真が撮れ、一方、曇り空では雲のベールが面光源になり柔らかい写真が撮れる…と言うもの。

この事を踏まえると、構図を考える時、背景全体と背景と被写体の距離だけでなく太陽に対する向きが大きく関わってくる事になります。
順光では鼻や眼孔の陰影がハッキリと強調され、逆光ではフラットになり髪の毛のエッジなどにハイライトが入る。
余談だけど、背景と被写体の距離は、レンズによって異なるがボケと圧縮効果(構図に占める背景の広さ)に関わってきます。

お日様の光は大きくこの2つの種類に分けることが出来る。
これをライティングに置き換えて考えてみたものが、良く耳にする「点光源」と「面光源」です。
メジャーなストロボアクセサリーのソフトボックスなども被写体との距離によって点光源になったり面光源にもなるので、取り回しは一概に説明できません。ストロボで全身を撮影する時、バストアップショットでは面光源だったものが一気に点光源になってしまう場合もあるわけです。
つまりひとつのアクセサリーだけで点光源と面光源を網羅することは難しい事になります。
点光源を作る場合、ソフトボックスや、オパライト(ビューティーディッシュ)、それらのオプションとして(ファブ)グリッド、またベアバルブ(生光源)などを使い分けていきます。

面光源に関して言えば、最初から面を広く作ればある程度取り回しの幅が広がる場合はあります。例えば、トレーシングペーパーとアンブレラを組み合わせたライティングですが、1m20cm程度で11m巻きのトレーシングペーパーを垂らしてアンブレラ光をディフューズ(光を拡散)させると、バストアップ、フルフィギュア(FF、全身)の両方に対応がしやすい、とても柔らかい面光源を作ることが出来ます。これは、そもそもアンブレラに反射した光を更にディフューズさせるので、柔らかい光を作る際の定番ライティングのひとつです。2m程度のトレーシングペーパーを使えば更に光源としての面が広くなるのでメイン光としてはとても取り回しがしやすくなります。
僕は3尺×6尺版(サブロク版、910mm×1820mm)と2m×2mのフレームを持っていて状況により使い分けてディフューズしています。通常のホリゾントスタジオ(背景がカーブになっている通称箱スタ)であれば、15m×15m程度の紗幕は完備されていて天井面に張ってその上からライティングを組む場合もありこれを天紗幕と呼びます。
天紗幕を組む場合、ストロボ1灯では出力が足りない場合もあるので、テトラクロスなどのジョイントを使って4灯をジャンボアンブレラ(ジャン傘)に組み込んで1灯に見立てたライティングを組む場合もあります。
これで薄曇りの柔らかいお日様の光を再現するわけです。


さて表題の「絵画に見る点光源と面光源」なんですが、
光源のメカニズムを踏まえるととても分かりやすく、その対照的な例えが
「レンブラントライティング」と「フェルメールライティング」になります。
二人の17世紀の高名な画家の特徴に、点光源と面光源の違いを見ることが出来ますが、こと写真において、「レンブラントライティング」は有名ですが「フェルメールライティング」について聞くことは皆無に等しく、しかし、この「フェルメールライティング」こそ、明治期以降の日本の写真館などで、最も多用された光の使い方だったりします。
では今度はこの二人の画家の光のメカニズムについて考えいきましょう。

先にネタバラシをしてしまえば、
「点光源」→「レンブラント」
「面光源」→「フェルメール」
です。
この事を説明するのに分かりやすい美術用語があります。
「オランダの北向の窓」
と言う言葉です。つまり「窓」を考えることで、点光源と面光源を理解することができるわけです。
フェルメールの代表作「牛乳を注ぐ女」などに見る通り、窓辺に立たせたモデルを描いている訳ですが、この光源である窓こそ「オランダの北向の窓」です。北半球では北向の窓から入る光に直射日光はありません。
地面や屋根などに反射した光で部屋の中は包まれます。反射によって拡散された光が窓から注ぎ込む部屋で描きだされたものがフェルメールのポートレートと説明できます。

では「レンブラントライト」はどこから差し込んでいる光なのでしょうか…
「後方斜め45°の高さの小窓(明かりとり)から“差し込む”光」と言うのが昔ながらの説明になります。
レンブラントの光源は、この“小窓から差し込むスポット光”なので、室内は光で満たされません。差し込んでくる光と言う意味で、雲の切れ間からスポット的に降り注ぐエンジェルラダーと呼ばれる光も同様にレンブラント光線と表現されます。つまり点光源から生み出されるスポット光線がレンブラントライトと説明できます。

多くの場合、ライティングを組む際は、このどちらかの光源をメイン光として、どの程度室内に光を満たすか、つまりフィルインライト(満たす光)を調節してライティングを組み上げていきます。

お日様は1灯という表現は間違いではありませんが、室内を満たす光を調整するために多灯ライティングにならざるを得ない場合も多いのです。
メインライトとフィルインライトの組み合わせで、両者のバランスを自然に仕上げるのがライティングの妙と言うことになりますね。

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