ネス単独公演「ザ・ワン」作品解説など(ネタバレあり)

2022年11月4~13日にシアターグリーン BIG TREE THEATRE(池袋)とIndependent 2nd(大阪)で行われたリアルアキバボーイズの一員、ネスくんの単独公演「ザ・ワン」の脚本と演出を、去年に引き続き担当しました。前回の「SIN」ともまた違うテイストの一人芝居(の中に彼のダンスもあり)でしたが、ちょっとだけ作品解説など出来たらと思います。

注)此処から先はほぼ全編ネタバレです!劇場で観劇済み、ネタバレを気にしない!という方はどうぞ。配信は21日23:59まで見れますので是非ご購入を!

作品の世界観

時間があまりないから前回の「SIN」の時と同じ構成の文章を書いていくぞw

今回はまずすごい脚本大変でした。ネスと打ち合わせをして物語の骨格を作るんですけど、ネスから出てきたのが「スワンプマン」の話でした。1987年にアメリカの哲学者、ドナルド・デイヴィットソンが考案した思考実験。

ある男がハイキングに出かける。道中、この男は不運にも沼のそばで、突然雷に打たれて死んでしまう。その時、もうひとつ別の雷が、すぐそばの沼へと落ちた。なんという偶然か、この落雷は沼の汚泥と化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう。
この落雷によって生まれた新しい存在のことを、スワンプマン(沼男)と言う。スワンプマンは原子レベルで、死ぬ直前の男と全く同一の構造を呈しており、見かけも全く同一である。もちろん脳の状態(落雷によって死んだ男の生前の脳の状態)も完全なるコピーであることから、記憶も知識も全く同一であるように見える。沼を後にしたスワンプマンは、死ぬ直前の男の姿でスタスタと街に帰っていく。そして死んだ男がかつて住んでいた部屋のドアを開け、死んだ男の家族に電話をし、死んだ男が読んでいた本の続きを読みふけりながら、眠りにつく。そして翌朝、死んだ男が通っていた職場へと出勤していく。

(Wikipediaより)

何故私は私なのか、アイデンティティとは何か。これを表現したいという話でした。むずいよw
大前提として前回の「SIN」が最初から最後までダークな物語だったので、とにかく明るい雰囲気にしよう、で、最後は考えながら帰ってもらおうという話になりました。色々なアイデアが話し合いの中でたくさん出ました。

自分の中でこれをまとめるには、ヒーローになればいいんじゃないかと。ヒーローはヒーローネームを持ちます、バットマンを知っていても、本名のブルース・ウェインを知らない人は多いかも知れません。ヒーローであるがゆえの秘匿性と、アメコミでよくある「二代目●●」というやつ、これは使えるんじゃないかと。ワンパンマンみたいなスーツを着たネスも面白いと思ったし、引きがあるんじゃないかと考えました。

タイトルもみんなで話している中で、「ザ・ワン」っていいね!となり、そこから物語の骨子が一気に自分の中で組み上がっていきました。

英語では数の具体性を重視します。この場合「THE」がつくので一つ、というものが重視した意味を持ちます。

ザ・ワンは一人、独り、運命の人という意味で使われますが、ネガティブな使い方として「例のやつ」とか「そいつ」「あいつ」という使われ方もします。
「ほら、前に話した問題ある例のあいつさぁ~」みたいな使われ方。どの用法で使われてもザ・ワンである主人公にしようというところから物語が出来上がりました。

抽象的な世界

「ザ・ワン」ではあえて多くを語っていません。何故こうなったのか、どうしてそうなっているのか、何がどうなのか、あえて説明を全部無視しました。

今回後半部分で博士が言う、エヴァンゲリオンの話。あれが僕個人が今回お伝えしたいこと全てです。

「登場人物が、制作側が碇シンジに世界の理を何も説明しないのはね、そのほうが面白いからだよ、こちらの撒いた種をかってに収穫して推論して、自分なりの結論に導いていく、考察がいくつも生まれる、それが愉快なんだ、だから説明をしない」

台本より

世界というのは結構曖昧でいい加減です。何故こうなっているのか、とか調べないとわからない。調べてもわからないことのほうが多い。だけどそこで僕らは生きているわけで、みんなが色々な考えを持って、色々な思いを持って日々を暮らしている。それが面白いと思うのです。

だからこの作品で描かれる前に何があったのか、どうしてこうなったのかの説明はありません。みなさんが想像して、みなさんが考察して結論を作る。全て正解でいいんです。だれかの意見に賛同しても勿論いいし、自分の中のザ・ワンを形成してもいい。そんな自由な作品にしたかった。答えの決まっていないレゴブロックのような、それぞれの想像力で保管できるものにしたかったのです。

とにかく今回は「ネスワンマン」にこだわりました。こじつけだけど、作品的にあそこに居たのはネスだけで、ネスのワンマンなんですよ、実質的に「ザ・ワン」という作品は。

3つの試練

オーパーツと言われるものを集めてくる物語なんですが、過去を取り戻すようなものにしようと思いました。前回の「SIN」よりネスの好きなラーメンズや小林賢太郎さんの一人芝居の雰囲気を感じさせられるようなものにしようと。だからネタやメタもりもりのパートのあとは、異常なほど静謐に過去を語るシーンを入れました。客席に緊張と緩和を生めればなと。

で、必ず大事なものがどこかに行って眠る。なんか小さな頃大事にしていたものって気が付くとなくなってたりしません?その感覚で書きました。あとはポップコーンとか、バスケとか、仕事とか、冒険パートでは無い現実的に質感のある表現を入れ込んであります。

試練は音ゲーやるのいいよね、というのと、ネスがアイデア会議で話していた「社会生活で全く必要ないものの達人が、それで人生が変わるような話」という実例の1つとして出たかたぬき、最後に僕が聞いた「都市部の動物愛護団体による殺処分反対のクレームが多くてクマを駆除出来ない」というニュースをそのまま使いました。世界中に冒険させるって行ってたのに…ごめんなザ・ワン、2つ日本だったわw(実際アドリブでネスに突っ込まれた、本番いきなり)

小ネタ的なもの

色々仕込んではいたんですけど、これ、最終的には人類は滅亡しているけど、その前に作られた研究施設とAIは、自身が壊れるまで延々と命令通りの実験を繰り返し続ける、という話です。

AIは「人間の思考を研究せよ」という命令を受けているんですが、人間とは、命とは、という哲学的命題に答えが出せていないので、何度失敗しても「人間」を生み出して実験を続けようとします。なのでザ・ワンは仮初でも肉体と精神と記憶を与えられ続けて何度も産まれ返します。

ネスが一人芝居をするなら、本当に君がやっていたのは(物語の中としても)一人芝居なんだよ、という「舞台の表現や比喩ではなく、見ているものが全て真である」というトリックを使ってみました。あと、記憶を少しづつ取り戻していて、そういう話なんじゃない?とお客さんが思い出した時に「あ、それ全部妄想だよ、君の想像した作り話」というドンデン返しをしてみました。

これは僕の中で「だるま落としを見せられていると気づくタイミングで、だるま落としをやっているテーブル自体をひっくり返すような作品にしたい」といっていましたが、楽しんでもらえたでしょうか?

実は個人的にイントロダクション(静かに過去を思い出して会話する所)で先の未来を示準しているんです。例えば最初のぬいぐるみ、あれは加東家に居たチンチラなんですけど、ネスってファンの方たちがネズミのアイコンで表したりするじゃないですか?ネズミはなかったのでチンチラなんですけどw

あのチンチラのぬいぐるみに対してザ・ワンは言ってるんですよ。

子供の時やりませんでしたか?ウルトラマンの人形だけど、自分で想像した物語の中では別のオリジナルキャラとしてその子を使ってごっこあそびする、みたいなやつ。
友達も少なかった僕は、そういう人形や玩具といつも遊んでいました。中でも生まれて少しした時に買ってもらったぬいぐるみは、僕の大切な友達でした。ごっこ遊びでも大体彼が重要な役を演じることが多くて・・・

台本より

って。
物語の中では別のオリジナルキャラとしてごっこ遊びをするんですよ、ねずみのぬいぐるみを使って。

あと、世界が崩壊してて、残されたAIがいなくなった人類の命令通りに延々と作業し続けるのは、刺さっていたスーファミソフト「クロノ・トリガー」のロボが耕す畑を意識しています。クロノ・トリガーめっちゃ好きで、あの未来でも畑を耕し続けるロボ思い出すなぁ、って人が居たら、同じことだよってのが伝わったかもしれないですね。

イヤリングの所では、片方のイヤリングをなくした彼女にザ・ワンはこう言い放ちます。

「また新しいの買えばいいでしょ、クリスマスなんだから買ってあげるよ」
それがキッカケでした、彼女の心が急激に冷めていくのを感じました、僕と彼女の中で残っていた一本の糸みたいなものが、ぷっつりと切れてしまったようでした。

台本より

また新しいのにすればいい、という話を聞いて、心がぷっつりと切れてしまうんですよ、彼自身も。

あと、舞台終演後にスタッフに白衣を着てほしいというのは僕からのオーダーでした。それに合わせて「じゃあ終演後のブロマイドも『終焉』にしましょう!」とスタッフさんがアイデアを出してくれて、最高!やろう!と嬉しくなりましたね。こっちの意図ちゃんと組んでくれてるな、と。

本編に関係ないところなんですけど、あー言うところで舞台の満足度って底上げできるんじゃないかなって最近思っていて、楽しんでくれたなら良かったです。

ネスのダンスは凄い

ダンスの選曲は全部ネスです。今回は前回以上にダンスと物語のハマりが素晴らしかったと思います。特にラスト二曲

「IMAWANOKIWA」は全編黒子の演出も込で全部ネスが考えています。マジで凄かった。最初稽古場で見た時鳥肌と涙が出ました。自分と彼女と父と母と全部がオーバーラップする、芝居で保管できなかったものを全部ダンスで纏めてくれました。

そしてラスト「ないない」ですが、僕が最初にイメージしていたのは同じReoNaさんでも「まっさら」でした。

「命を続けたいと願い、叫び、最後まで生き続ける」中、冷酷に舞台監督という「作品の外の存在」になってしまった黒子が世界を壊していく。というイメージだったんですが、ネスから
「ここは俺「ないない」しか浮かばないっす」
と言われて、それを採用しました。

これは圧倒的にネスのチョイスが正解でした。歌詞、世界観、全部があそこにいるザ・ワンを象徴する一曲でした。ダンスもこだわりにこだわって、東京ゲネプロ直前まで照明も変更したりして出来上がった一曲です。

僕が最初に思った世界観だとロマンチックすぎるんですよね、あの渇望と残酷さは「ないない」じゃないと出せなかった。最後の電球が落ちる瞬間まで駆け寄ろうとして無慈悲に暗転する瞬間、毎回鳥肌が立っていました。

ReoNaさんは僕もデビュー直前からずっと取材し続けて本人もよく知っていますし、RABも「シャル・ウィ・ダンス?」でコラボして一緒に踊るなど交流があり、凄く「人の縁ってつながるんだな…」と思っていたのでここで彼女の曲が使えて嬉しかったです。本人にも伝えたら喜んでくれていたし。

ちなみに劇中で使っている曲も今回は色々とありまして
研究所から逃げるザ・ワンのシーンはサイバーパンク2077から「On My Way to Hell」

崩壊した世界をさまようシーンでは攻殻機動隊SAC OST2より「Go DA DA」

カーテンコールではゲームICOより「Heal」を使っています。

一応劇中セトリこちら
THE ONE(電音部 鳳凰火凛)
Unison(宝鐘マリン&Yunomi)
FAKE LAND(FAKE TYPE.)
決意の朝に(Aqua Timez)
ST/A#R feat.Hatsune Miku(*Luna)
IMAWANOKIWA(いよわ)
ないない(ReoNa)

演出について

今回はちょっと大掛かりで、無機質だけど天井の高さを表すようなものにしてほしいとお願いしました。大中小の格子状の立方体と椅子、それだけの舞台。最後に世界が崩壊したときに蔦が降ってきますが、あれ絡むので凄い難しいんですよ、舞台監督九巻さんが心底頑張ってくれました、超感謝。

舞台写真

今回は前回の「SIN」以上に演出助手をやってくれてた橘実咲季には助けられました。僕がブースで全く舞台面に行けなかったので、裏のことだけではなく、今回はマジで黒子として使いまくってしまいました。ほんとごめん実咲季…彼女も素晴らしい役者さんなので是非応援してあげて下さい。

左から音響須川さん、照明センターピン河上さん(大阪のみ)、照明紺野さん、舞台監督(でかい方の黒子)九巻さん、演出助手(小さい方の黒子)橘実咲季、そしてでかい金髪デブが僕
真ん中のかっこいいのがネス。

ってことで、厳しいながらも充実したチームネスワンマンでした。ザカルトにも凄い助けられた、ありがとう…そして沢山のお客様に何度も足を運んで頂きました。

リピーターが絶対いるだろうし、一度見たらもう一回見たくなる作品にしたかったのです。二回目は最初のシーンから印象がまるで変わって見えるだろうし。何と言っても一回一回、毎シーン毎シーン、ザ・ワンは「生まれ変わっている」んですから。

それはなんか、うまく行ったかなと思っています。何か皆さんの心に残ればいいし、生きること、自分というものを考える切っ掛けになればよかったです。

反省点はめっちゃ長い(2時間強)の作品になってしまったこと、ネスの体力だいぶ削ってしまったこと、あと自分の芝居がダメダメだったことなどですね…最後のは超反省…怠慢はダメだ…修行が足りん…。

あとは前回の「SIN」以上にネスの単独公演というのを意識した部分はあります。メタな笑いもRABがわからないと理解しづらい部分もあるし、一演劇作品としては(いくらネスの素晴らしいダンスがあるとは言え)ちょっとファンに寄り添いすぎたかなっていう思いはちょっとだけあります。でも今回はシンガポールのでかい舞台より日本の単独を選んだネスを応援してくれる人が来場者の大半だと思っていたので、あえてそうしようと思って作りました。これはこれでありかなと。

なので超少ない(多分全公演合わせて3人位w)の僕の作品が好きで来てくれた人には「これを機にネスやRABを応援してあげてよ」と言いました。あ、逆もありですよ?ザ・ワンをキッカケに僕とか橘のファンになってもいいんですよ!いいんですよ!!(懇願)

また僕が必要とネスやRABが思ってくれるなら、いつでも馳せ参じるつもりです。今は次何やろうか?なんて僕もネスも考えられないのでwまたいつか機会があれば、ね。

以上。ざっくりと書き連ねてきました。なんか追記したくなったら追記しますし、聞きたいことがあったら加東のツイッターにでもリプくださいませ!

劇団GAIA_crew代表 加東岳史

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