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閉じずの扉。

私が小学生の頃、祖母と祖母の実家に遊びに行く事が度々あった。祖母のお母さん、(つまりひいおばあちゃん)がまだ存命だったのです。

祖母は自動車の運転が出来なかったので、私と祖母の二人でひいおばあちゃんの家に行く時は、路線バスを使っていました。

祖父母の家から近いバス停から路線バスに乗り、ひいおばあちゃんの家へ向かう途中にそれはありました。

少し小高い丘に建つ白い壁と青い屋根の二階建て木造建築のアパート。昭和の時代に建てられたと思われるそのアパートの外観は、経年劣化により白かった外壁は黒ずみ、青い屋根は日焼けにより薄い水色になっていました。

バスでアパートの近くを通りかかると、祖母はこう言いました。「カヲル、ほら見て、幽霊アパートだよ」と。

私が怖い話が好きなのを知っていて、教えてくれたその内容は、

かつてそのアパートで殺人事件があった。事件が起きたのは道路から遠い奥の一階、角部屋。

その事件はもう解決しているが、問題はそのドア。部屋のドアは何度鍵をかけても、気がつくと開いてる。当然、部屋の中は丸見え。同じアパートの住人も、気味が悪いと不審がっている。

ドアの鍵が悪いのか?と大家さんは鍵の交換をしてみたが、やはり気づくとドアは開いている。ならば、とドアごと交換しても効果は無かった。

閉じることの出来ない扉。どのみち、幽霊アパートと噂が立ってしまったこの部屋の借り手はつかない。

大家さんは諦めて部屋のドアの前に、古びて壊れた洗濯機を置く事にした。これならとりあえず部屋の中に入る事も出る事も出来ないだろうと。

今思うと、霊能者のお祓いでもお寺のお札でもなく解決手段は物理的に処理するところが興味深い。

さすがの幽霊?も、重たい洗濯機を退ける事はできなかったようで、とりあえず扉が勝手に開いてしまう件は解決した様だ。

私は、ひいおばあちゃんの家に祖母と二人で路線バスを使って行く度に祖母へ幽霊アパートの話をせがんだ。同じ話なのだが、何度も聞きたくて。

そんな幽霊アパートも、私が高校生になる頃には取り壊されて、その土地は畑になっていた。そこにそんな建物があったなんて想像もつかないぐらい町の風景は変わってしまった。

それでも、もし新しいアパートなり一軒家なりをその土地に建ててたら‥やはり扉は勝手に開き、閉める事は叶わなかったのだろうか?



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