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天井

幼馴染のユリの話。

ユリが中学生の頃、自宅を建て直す事になった。
建てている間の住む場所として、隣町の古い戸建てを借りる事になった。

二階建ての古い建物。今まで小さな平屋暮らしだったユリは初めてお兄さんのケイイチさんと別々の部屋を与えられて満足だった。

二階の部屋にケイイチさん、その真下にあたる部屋がユリのものになった。

古い戸建てに引っ越して二、三日経った頃だった。初めは気のせいだと思っていたが、ユリの部屋にある西側の窓を横切る人影が見える。

それは男性の様でもあり、女性の様でもあった。さまざまな年齢や性別の人影がちらつく。

正面から人影を見ようとしても見えず、人影はユリの視界の端で見える。

気味が悪いのでユリは西側の窓のカーテンをずっと閉めている事にした。

とりあえず視界に入らなければ問題ない、ユリはそう自分に言い聞かせた。

窓際を通る人影の問題は一応解決したが、今度は一人で家にいると誰かの足音や気配を感じる。

ユリはなるべく一人で家にいる事を避ける様になった。部活に打ち込み、家族が家に帰るまで友達の家や公園などで時間を潰す様にした。

ある日身内に不幸があり、両親が出かける事になった。身内の家は遠方にあり、その日両親は帰ってこない。家にいるのはお兄さんのケイイチさんとユリだけ。その時、テスト期間中だったユリは当然家に残る事になる。

当時高校生だったケイイチさんはバイトに行き、夜にならないと帰ってこない。実質ユリが一人で留守番となる。

夕飯を一人で済ませ、自室でテスト勉強をするユリ。玄関から物音がした。

あ、お兄ちゃん帰って来た。ユリはそう思った。玄関が何やら騒がしい。複数の足音が階段を登り、二階のケイイチさんの部屋に入って行った。

ケイイチさんの部屋が騒がしい。うるさいな〜!テスト勉強に集中出来ないじゃない!ユリは怒ってケイイチさんの携帯に電話した。

もうお兄ちゃん静かにしてよ!あたしテスト期間中なんだからね!ユリはケイイチさんに怒った。


え、ユリ?俺、いま家にいないけど。バイト仲間と今ボーリングしてるんだけど?妹のユリの怒りに困惑したケイイチさんはそう答えた。電話越しにもボーリング場の雰囲気は伝わってくる。ケイイチさんは嘘はついていない様だった。

え?じゃあ今2階にいるのって誰?一人では2階に確かめに行くのも怖い。とりあえず勉強に集中してやり過ごす事にした。

‥ユリはいつの間にか寝ていたらしい。気がつくと朝、時計を見ると6時になっていた。

玄関からチャイムの音がした。覗き窓から見ると朝帰りをしたケイイチさんだった。

え〜!お兄ちゃん、家に帰って来なかったの?
ユリが驚く。そしてケイイチさんに昨日の夜の事を言った。

意を決して二人で二階にあがる。当然ケイイチさんが先頭で。部屋のドアをそっと開ける。‥部屋は荒らされた形跡はない。

ケイイチさんはほっとして、ほら〜ユリの勘違いじゃないの?誰もいなかったじゃないか!とホッとしながらユリの方を見る。

‥ユリはケイイチさんの部屋の天井を見ていた。
お兄ちゃん、天井見て‥あれなに?

ケイイチさんは、天井を見た。‥そこには天井板全体に人の足跡‥裸足の足跡がびっしり付いていた。まるで誰かが天井を逆さに走り回っていたかのように。

うわー!なんだこれ?驚くケイイチさん。とりあえず二人は両親が帰るまで一階で待つ事にした。

夕方両親が帰って来たので二人でこの事を話した。

両親を連れてケイイチさんの部屋へ行った。‥両親に天井を見せたが、何故かびっしりあった足跡は消えていた。

両親もケイイチさんやユリの勘違いだったのだろうと結論付けた。天井のシミを人の足跡と見間違えたんだろ?と。

納得のいかないユリとケイイチさん。ユリは悶々としながら自室のベッドに横になってふと天井を見た。

‥何故かユリの部屋の天井にそれはあった。
天井の隅に何故か小さな裸足の足跡、女性の右足らしいものが一つだけ付いていた。ゾッとしたが、両親は相変わらず天井のシミだろう、とユリに言った。

それ以来、天井の隅は見ないようにユリは過ごした。自分の部屋にもあまり居ないようにし、早く新しい家が建つのが待ち遠しかった。

建て直した家には何も起きなかったという。



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