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マーダーミステリーが歩む未来

・1:はじめに

 マーダーミステリーというコンテンツが、昨今流行の兆しを見せていると言います。実際とても面白いコンテンツであり、是非体験してみてほしいところ。この記事は、「マーダーミステリーを知っているも、根源的な不安を抱えている人」を対象に書かれています。「マーダーミステリーをまだ知らない人」はちょっとぐぐった上で、「面白そう!」と思えば、是非どこかしらで体験してみてください。専門店である【Rabbithole】他、東京ならば【ゲームスペース柏木】【ボードゲームショップとど】などで遊ぶことができます。また、私がコンセプトシーシャバー(水タバコ居酒屋)の軒を借りる形でプロデュースした【こんなもの】も月1で開催しておりますので、よろしければ。

 さておき。前述の通り、本記事内では、似たような末路をたどりつつあるクトゥルフ神話TRPGのケースを踏まえつつ、マーダーミステリーが向かってしまう先と、それを回避するための理想論を語ろうと思います。


・2:マーダーミステリーのコンセプト欠陥

 1度しか遊べないことです。部分的でもネタバレによってゲーム性が崩壊する以上、クリアできなかったのでもう1度遊ぼう、は成立しません。無論、面白かったのでもう1度遊ぼう、も、人間である以上不可能です。それでいて完全な協力ゲームではなく、探偵側と犯人でゲーム目的が異なるため、ゲームの勝利をクリアと定義する場合、全員でクリアすることは不可能です。結果「クリアできなくても楽しい」というゲームとして作る必要があるわけですが、クリアできた時とできなかった時の楽しさがイコールであるわけがなく、どちらがより大きいかは言うまでもないのです。

 一応、一度プレイしてしまった者は、シナリオをすべて読んだ上で、ゲームマスターを行うことで2度目の体験が可能です。他人が楽しんでいるところを目の前で見る追体験で楽しむことができますからね。しかし、ゲーム目的が探偵側と犯人で違う以上、ゲームマスターは誰かに肩入れができず、プレイヤーが勘違いやコミュニケーションエラーや単純な推理力のたりなさで行き詰まった時、そのもどかしさを抱えたまま、処理のみを行う機械に徹する必要があります。楽しさを追体験できるということは、もどかしさも追体験できてしまうということでもあります。


・3:マーダーミステリーの脆弱性

 まとめて言うと、悪意に弱いことです。ネタバレによってコンテンツの価値が失われるという絶対的な事実は、ネタバレをしないプレイヤーの善意によって支えられています。また、協力ゲームである以上、プレイヤーの中に「好き勝手してやろう」という狂人(※人狼用語です)が居た場合、そのゲームは崩壊します。狂人までいかなくとも、単純に推理能力やアクティブ性が低いゲームへの理解が足りないプレイヤーが居た場合、重要な情報がそのプレイヤーの中で握りつぶされてしまい、謎が解けないこともあるでしょう。愚かさもまた悪です。

 つまるところ、1回しか遊べないマーダーミステリーを確実に楽しもうと思った場合、信頼のおけるプレイヤーで集まった上で、SNSで唐突に降ってくるかもしれない隕石のような「ネタバレ」を回避する必要があります。さらに言えば前段で語ったとおり、その上で「クリア」しなければ、いかなる名作シナリオであっても100%楽しむことができません。言ってしまえば、ゲームをプレイしている間こそ、プレイヤーの実力で決まるゲームですが、それ以外の部分で、絶望的なまでに「運ゲー」なのです。

 ここと前段をまとめると、マーダーミステリーを確実に楽しむためには、ネタバレを避け、かつ、信頼できる頭とゲームに対する理解を持ったプレイヤーの集まったクローズドなコミュニティ内でのみセッションを行い、そこに飛び込む初心者に関しては、先駆者から厳しく指導していく必要があるという結論に至ります。


・4:古典的TRPGの没落とCoCの隆盛

 この、クローズドな世界でしか楽しめないことで没落していったのが、D&Dやソードワールド(ロードス島戦記)に代表されるテーブルトークロールプレイングゲーム、TRPGです。構築されたコミュニティは決して永遠ではなく、なにかしらの理由で人は減ります。つまるところ、新規ユーザーを取り込まない世界は滅んで当然なのですが、その新規ユーザーの門が狭く険しい物になっている以上、滅びは必然なのです。

 そんなTRPGが最近隆盛しつつあります。それが、クトゥルフ神話TRPG(以後CoC)の存在です。動画サイトで人気に火がついたCoCは、今現在のTRPGの主流であり、TRPGといえばCoC、という風潮が成立しています。しかし、CoCは動画サイトで火がつく以前、古典的TRPGユーザーの中では「色物」として扱われていました。忖度をせずに言ってしまうと、面白くないのです。それまでの古典的TRPGは、GURPSという1つの完成形に向けて、よりリアルに、より様々な表現ができるよう、複雑な方向へと進化していきました。そして複雑怪奇の極みに至ったGURPSは恐竜の如く滅びるのですが、そんな進化がもてはやされていた時代に、極めてシンプル、極めて運ゲー的に作られたのがCoCだったのです。

 では何故CoCが隆盛したのか。結論から言うと、シンプルで運ゲーだから、ようは、「誰でも遊べる」からでした。それまでのTRPGは初心者から「面白そうだがこれは自分には難しすぎる」と映ったのに対して、CoCは「面白そうだしこれは自分にも出来るそうだ」と映ったのです。結果的に、大勢の初心者がCoCからTRPGに参入し、今の偽りの黄金時代があります。何が偽りなのか。それは、初心者にとって、CoCのみがTRPGであり、其れ以外のゲームは「難しいなにか」なのです。CoCをTRPGであるとカテゴライズした時、TRPGプレイヤーの数は爆発的に増えました。しかし、CoC以外の古典的TRPGから細々と生き残った様々なシステムとCoCを分けた時、古典的TRPGは今も絶滅危惧種でしかないのです。


・5:CoCの隆盛によって至ったTRPGの今

 TRPGとは、そもそも「システム」であり「枠組み」でしかありませんでした。その中でどのような物語が起きるかは、その場のゲームマスターの思いつきであり、プレイヤーの行動と、それにあわせたゲームマスターのアドリブによって、同じ物語は二度と起きないものでした。しかし、CoCの隆盛は、TRPGに「通過」という概念を誕生させました。CoCプレイヤーは、既存のCoCシナリオのプレイ体験を、「そのシナリオの通過」と呼びます。ようは、もうネタを知ってるからそのシナリオは楽しめないよ、新しいシナリオで遊びたいな、という「消費者」が誕生したのです。

 そして、多くの初心者が参入するということは、必然的にその中に「悪」が混じります。SNSでシナリオのネタバレがされて炎上してしまうことはもはや日常です。ネタバレをする人間は常に別人です。個人が悪なのではなく、一定数の人間の中には常に悪が存在するのです。さらには、ゲームをプレイする中で積極的にゲームに参加せず、結果的にゲームを崩壊させてしまう「地蔵」や、単純な困ったちゃんもあわせて、良いシナリオを良いシナリオであるまま「通過」できることは運が絡みます。それでも「もっと、もっとシナリオを消費させろ」と需要が加速する中、生産されるシナリオもまた玉石混交、もとい、石が多くなり、無料で公開されるシナリオはお世辞にも良いクオリティとは言えません。それでも、無料であることはもてはやされ、値段がついたシナリオは名作であっても流行らない。これが今のTRPG界隈の末路です。


・6:同じ道を進むマーダーミステリー

 このCoCの道を、マーダーミステリーが進まないといえるでしょうか。通過の概念。悪意への弱さ。既に、マーダーミステリーはCoCと同じレールに乗っています。それを回避するため、クローズドにコミュニティを構成し、初心者という「悪」から世界を守ろうとした時、マーダーミステリーは古典的TRPGと同じく、細々と滅びの道を歩みます。

 これは実は、近年のカードゲーム、マジック・ザ・ギャザリングにも同じことが言えます。初心者を歓迎し、MTGAという基本無料の枠組みを作った結果、プレイヤーの質は下がり、かつてのMTGの「誰もが魅力的なプレイヤーで」「どこでも楽しいゲームが遊べた」世界は消えつつあります。マーダーミステリーとCoCは極めて類似していますが、そもそも「コンテンツ」としてあるものは、すべからくこの二極化から滅ぶのでしょう。


・7:コンテンツの賞味期限を伸ばす

 ここで「コンテンツはそういうものだからしょうがないね。消費したら新しいものを探そう」と考えるのは、ある意味賢い考え方です。しかし、もしもマーダーミステリーを愛するのであれば、そこで「ではどうすれば賞味期限を伸ばせるのか」を考えるべきではないかと、少なくとも私は思います。そして、少なくとも私はその手段をいくつか思いつくことができています。ここから、その理想論を語っていこうと思います。


・勝利条件の統合
 「探偵役が犯人を見つける」or「犯人が逃げ切る」以外の、全員が目指すべき勝利条件を設ければ良いのです。例えば、探偵役が全員犯人に至るものの、犯人に共感し意図的に全員で事件を隠蔽し「犯人は見つからなかった」というエンディングに至る。逆に、犯人が名乗り出るも、犯行がまだ何かしらの理由やトリックで取り戻せるものであり、その事件が起きてしまった根源的問題を全員で解決する、などですね。


・ゲームマスターのアドリブ
 探偵VS犯人の対決構図がある以上、ゲームマスターは公平であるべきであり、ゲームに介入ができません。しかし、上で語った勝利条件の統合という前提であれば、ゲームマスターの「解決への協力」が肯定化され、全員がより高確率でゲームを楽しむことができるでしょう。ではどう介入するのか。それがアドリブであり、ゲームマスターの腕になります。ただヒントや答えを述べるのではなく、NPCをその場で捏造し、そのキャラクターがぽろりとこぼした言葉が実はヒントになっている、などですね。これが肯定化されるのであれば、技量の劣る初心者のミスを、ゲームマスターの技量によってカバーできます。

 また、ゲームマスターの技量に依存できるということは、ゲームの中身をしっかり作る必要性がないということにも繋がります。しっかりと作り込まれたゲームは、誰でもゲームマスターができる反面、誰でも同じストーリーになります。しかし、意図的に作り込まず、ゲームマスターの技量に依存したゲームは、毎回ゲームマスターによって展開が異なり、部分的に内容を知っていても、ゲームマスターとプレイヤーが異なれば、何度でも楽しむことができるでしょう。


・決して無料にしない
 これは重要なことです。時として人は、自分が楽しいと思う物を大勢に遊んでほしいと思うあまり、タダでコンテンツの体験をさせることがあります。麻薬の密売人のように、最初はタダだけど次からはお金を払ってね、とする目的であったとしても、そもそも「無料」という概念が麻薬なのです。無料で遊べた人間は、次に無料で遊べる場所や物を探します。そして、得てしてこういった人間が、より「悪意」を発露させます。現在マーダーミステリーの公演は1人4000円程度ですが、この値段設定を崩すべきではありません。


・ネタバレに対する防御
 それでもネタバレを0にすることはできないでしょう。そこで、この技法を使います。

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 これです。ネタバレを隠すならネタバレの中。ようは、プレイしたユーザーが、嘘ネタバレをする文化を築けばいいのです。ちょっとした大喜利要素にもなり、アフタープレイをより楽しいものにするでしょう。


・8:終わりに

 マーダーミステリーは素晴らしいコンテンツです。ならばこそ、それを「消費」されるものにしたくない。そんな思いで今回の記事を書きました。そして、今回の考察とノウハウは、【私が10年ほどリーダーを務めるTRPGコミュニティ】での経験から生まれたものであり、また、はじめに紹介した【この公演】には、7で語ったノウハウが導入されています。最後が宣伝になってしまうあたり現金ですが、この2つ(特に後者!)をよろしくお願いします。
 なお、本記事に対するご意見・ご感想をお待ちしております。【私のTwitterのこのツイート】へのリプでもらうのがよいかな、と思います。気軽なリプをお待ちしております。

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