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【 Summer of 85 】 感想vol.046 @なんばパークスシネマ③ 21/9/11

20/仏/ビスタ/監督:フランソワ・オゾン/脚本:フランソワ・オゾン/撮影:ヒシェム・アラウィー

監督の近年の作品は観れていないので、随分と久しぶりに感じる。残暑の中で思い出す遠い夏の日。そんな淡い予感が胸に滾ったので観賞に至る。

ストーリーについて。1985年、夏。16歳の少年アレックスは一人でヨットに乗り、沖に出る。そこの突如として訪れる嵐。転覆し動転する彼に手を差し伸べたのは18歳の少年ダヴィド。運命的な出会いを果たした二人の間には、友情を超え、いつしか愛情が芽生えていた。16歳のアレックスにとっては、生まれて初めての恋。共に過ごす毎日が愛しくてたまらない。そんなある日、一人の女性が現れ、二人の関係性は急速に冷めて行く。嫉妬に狂うアレックスと、もっと気楽に楽しみたいダヴィド。擦れ違いは元に戻ることなく、ダヴィドは事故を起こして帰らぬ人となってしまう。生きる希望をなくしたアレックスの心にあるのは、「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」というダヴィドとの近いだけであった。

エイダン・チェンバーズの『おれの墓で踊れ』というものを原作にしているらしい。未読。そこに『スタンド・バイ・ミー』や『マイ・プライベート・アイダホ』といった映画からの影響があるそうな。私の生涯トップ5に入る『マイ・プライベート・アイダホ』の名が挙がっていることが、素直に嬉しい。

セリフ回しが瑞々しい。周囲に対して無闇に尖りたくなる気持ちと、まだまだ幼さが残る10代の少年というものを上手く表現されていると感じた。日本人と比べると大人びているのは、やはりフランスだから仕方ないけれども。やっぱりフランス映画ってシャレオツよね。平易な書き方だけれども。それと、劇中曲の使い方が素晴らしい。ロッド・スチュアートの「Sailing」とTHE CUREの「In Between Days」が良い塩梅この上ない。どちらも私の世代の曲ではないが、名曲は普遍なりということです。

今作で白眉となるのは、なんといっても全編フィルム撮影を行ったことだろう。あの頃をあの頃と足らしめんとするのは、憧憬だけではなく、やはり物質の力も必要になってくるのだ。80年代を再現する作品は多いけれども、それをデジタルで閉じ込めてしまってはダメなのだ。その時代を現代に写し出すには、当時に使用されていたものでなくてはいけないのだ。だからこそこの映画には、こんこんと湧き上がる魅力に満ちているのだと思うし、光り輝く青春の眩しさが宿っているのだと感じる。

日に焼かれて熱を持った赤い肌。全身をぼんやりと包む疲労感。あれが夏でありましたな。

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