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【 空に住む 】 感想vol.006 @MOVIX八尾⑦ 20/11/15

20/日/ビスタ/監督:青山真治/撮影:中島美緒

どこにも居場所がないと感じるのは、自分の中に重力がないから。

あぁ、残念だ。青山真治と云う人が、「ストーリー」を描くのではなく、「ドラマ」を描く人になってしまった。局所的過ぎる。流れを感じられない。『共喰い』以来、7年振りの監督作品としては、正直に書けば、「失敗」と書かざるを得ない。伝わるものが何も無かった。

原作小説は未読。そもそも、原作があった事する知らなんだ。小竹正人と云う作詞家の方が書かれた模様。なるほど、だから部分的なのか。

多部未華子は好きな女優。演技と云うよりも、顔ファン。幼顔のギャルメイクが何だか妙に癖になる。彼女としても30歳を超えて、色々と挑戦したかったのだろうが、ラブシーンに色気がない。ただ、これは彼女だけの問題でもない気がするが。

諸々と疑問点が山積。先ずは、撮影がたむらまさきではなかったと云う事。これは、既にたむらまさきが亡くなっておられるので、如何ともし難いが、青山真治は色々な撮影監督と作品を作り上げてきた訳で、他にも候補がいたはず。だのに何故、今回はこの撮影監督を選んだのか。調べた限り情報が得られなかったが、おそらく初作品なのでしょう。それにしても、空間が無い。のっぺり、ぺったり。意識してそうしているのかは知らねども、映画の題材と合っていない。ん~、致命的。

それと、録音に関してだが、シーン毎、カット毎のノイズの入れ方がバラバラで聴き辛い。邦画は音を小さ目に録る傾向があるが、その為なのか。ダビング作業として、この結果は如何なものか。演出とするには意図を汲み取り憎い。

技術面の粗さが目立ったのは、演出に力強さが無く、鑑賞中に飽きていたせいも多分に大きい。青山真治作品は、高校時代に『冷たい血』、『SHADY GROVE』、『EUREKA ユリイカ』などを観て興奮していただけに、この没落ぶりは泣けてくるぜ。

ストーリーについて。両親の事故死をきっかけに、叔父夫婦の所有する都心のタワーマンションへ愛猫と共に引っ越した女性。それ迄通りに、務める出版社へと通い、生活を送るが、喪失感が癒えず、ふわふわとした感情のまま日常を送る。ある時、同じタワーマンションに住む売れっ子俳優とばったり出くわす。二人は刹那的な感情の穴埋めとして、逢瀬を重ねる様になる。先の見えない日々。彼女の出した答えとは…。はぁ、話が表面的過ぎてつまらない。全く自己同一化出来ませんわ。局面的な感情描写ばかりで、何故そうなったのかという背景描写が弱すぎる。観客側で補う事も出来るが、それにしても、心理の在り方が、ぼんやりとし過ぎてて、共感出来ない。「こんな孤独なあたし。でも、自分なりに頑張っているあたし。どうですか?」と言われている様で、鼻につく。酒落臭いやつだなぁ、としか思えない。

良い所を強いて上げれば、美村里江の演技。かつて、ミムラ時代の『ビギナー』を観た時は、「この女優は大丈夫なのか?」と、老婆心ながら将来を心配してしまったが(そもそもドラマが酷過ぎた!)、未だに続けておられるのは、それなりに需要があるからか。同い年として嬉し限り。後は無し。

邦画の世界から、青山真治を消し去る事は不可能なので、次回作を心待ちにする。

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