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【 真夜中乙女戦争 】 感想vol.079 @あべのアポロシネマ⑧ 22/1/31

22/日/シネスコ/監督:二宮健/脚本:二宮健/脚本協力:小林達夫/撮影:堤祐介

正直、タイトルからして、あまり期待は出来ないのは分かっていた。予告篇を観るに、ミステリアスでサスペンスフルな、それっぽさは伝わってきたのだが、どうにもそれ以上の作品になるのかと、半信半疑のままでいた。であるならば、観て確かめるしかない。劇場へと向かう。原作は未読。

ストーリーについて。
上京すれど、大学になじめず、友も出来ない。奨学金の申請が必要な苦学生の「私」は、深夜バイトに精を出しながら、日中の講義に出席していた。夢も希望もなく、日々が擦り切れて行く。頼みの綱の講義も、恐ろしくつまらない。授業料に見合ったものしてくれ、と教授に求めたが、コーヒーをぶっかけられて話は終わってしまう。同郷の友に、何かサークルに入ればいいじゃんと言われ、「かくれんぼ同好会」の入会希望相談会に向かう「私」。そこで、「先輩」と出会う。冷徹な印象であった彼女も、サークル活動中は明るく朗らかな、普通の女の子と変わらない。「私」と「先輩」は、次第に親交を深めて行く。そんな中、構内の喫煙所で頻発する、爆破事件。犯人は全身黒ずくめの「黒服」であった。「私」は「黒服」と行動を共にする様になり、退屈だが刺激的な日常を手に入れる。孤独な魂は惹かれ合い、いつしか「私」の周りには、似た者同士が集まってきていた。やがて「黒服」は東京全土を爆破する「真夜中乙女戦争」の計画を発表し、同志たちを鼓舞するのであった。

前半は謎めいていて、好感が持てたのだが、黒服の一団の活動がエスカレートして行くにつれて、私の興味も薄れて行ってしまった。どうにもテンションが切り替わらない。感情の推移がグラデーション過ぎて、彼らの破壊行為に賛同できなかったのだ。「私」にとって「黒服」がカリスマなのは伝わったのだが、周りの人間に対しての「黒服」のカリスマ性の描写が足りなかったからなのかも知れない。確かに、主人公も「黒服」から離れて行ってしまうので、感情の流れからしては間違いではないのだが、映画としては物足りなさを禁じられない。

観賞中にこんな事を思ってしまった。なんだか、設定としては『恋する寄生虫』と似通っているなぁ、と。世界に絶望し、嫌なものは爆破しちゃえばいいじゃん、というエゴイスティックな思想を持つ主人公は同じだが、本作の「先輩」は未来を信じ続けているという違いはあるが。
『恋する寄生虫』のひじりは、賢吾だけを見ていたが、本作の「先輩」は、「私」を通した世界、「私」のいるこの瞬間を愛している。だからこそ、ちょっと切ないのかも知れない。「私」は「先輩」に自分だけを見て欲しかったが、「先輩」は別のものを見ていたのだ。どれだけ焦がれても、その想いは報われないのだ。
また、賢く気遣いのできる女性と思われていた「先輩」も、実は中身のない人間であったというのも、趣深い。恋は対象を美化し、盲目にさせるのだ。その点で、本作の方がはるかに恋愛映画としては成功していた様に感じる。

物語の背景として、フォーカスされていたのが東京タワー。「東京を東京たらしめるのは、東京タワーである」という話を、『セーラームーン』の感想の中で書いたので、ここで改めて書くつもりはないが、本作もやはり、「東京タワーこそが東京の象徴である」という、上京者視点と在京者視点が混在する作品であった。スカイツリーがこれに取って代わることは、未来永劫ないであろう。

池田エライザ演じるところの「先輩」の歌唱シーンであるが、意図的な感じがしてあまり好かない。選曲が『ミスティー』なのもあざとい。でも、池田エライザが可愛いので赦す。
そして、酔っぱらった「先輩」を介抱する「私」。それにしても、どうして介抱している時の男って、あんなにも恰好つけちゃうんだろうか。別に付き合ってるわけでもなく、好きでもない女の子であってもだ。これが、男の本能なのだろうかね。

本作でハイライトというべきシーンは、「可愛かった?」と訊く「先輩」に、「お綺麗でした」と答える「私」であろう。これでいいのだ。「私」も普通に女の子と話をして、普通に友と楽しい毎日が送れさえすれば良かったのだ。特別なものは求めていなかったのだ。欲しかったものは、刺激ではないのだ。他者を必要とし、必要とされる。自分自身の存在意義を確かめられれば、それで良かったのだ。
承認欲求のエスカレート故か、最近の若い女の子がSNSでパンツやおっぱいを見せびらかせているが、そんなもの今すぐやめちまえ!フォロワーの数なんて無意味だし、君の価値を下げるだけだ。そんな事をしなくても、どこかで必ず誰かは想ってくれているのだ。ラインが鳴らずとも、考えてはいてくれるのだ。私の頭の中にも常に、想わずにはいられない人がいる。だからこれは、本当だ。

なんやかやあるが、池田エライザが可愛いので全て良しとします。

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