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【 追悼福島要映画祭 】 ex.001 @音太小屋 21/11/6

今回は、劇場観賞作品とは違い、上映会観賞作品について書きたいと思う。

世の中がすっかり秋めいた、十一月初旬。朝日新聞デジタルで、こんな記事を見つけた。産業映画を撮り続けたカメラマン、故・福島要さん。その功績を称える追悼映画祭が開催される。というものを。
産業映画なんて、上映会が開催されない限り、普段なかなかお目に掛かれる機会はない。産業映画とはつまり、会社のプロモーション映像のことである。ビデオ媒体が普及してからは、企業VPと呼ばれていたものだ。最近では、Youtubeなどの映像プラットフォームが普及しているので、どんな会社であっても気軽に自社の紹介をする事が可能となった。制作者の需要が高まり、安価で大量生産を求められる時代になったが、一つ一つに丁寧に取り組む事が難しくなった。割り切りとドライなビジネス感覚を要求される時代の中で、作り手の情熱というもは、最早不要となってしまったのだろうか。
福島さんのことは、記事を読んで初めてしった訳だが、16mmフィルムで作品を撮り続け、産業映画に生涯を捧げた男の生き様がどんなものであったのかを知りたいと思い、会場へと向かった。

当日上映されたのは、順番に以下の5本であった。
1985年度日本産業映画大賞 薬品・食品部門 奨励賞受賞作『酒の心を継ぐ~江井ヶ嶋酒造』
いのちの電話の活動を描いた『叫びとささやき』
自主制作映画『徒然』
同じく自主制作映画『十三風土記』
同和保育問題を取り上げた『村の子育て』。

『酒の心を継ぐ~江井ヶ嶋酒造』について。
福島さんの事前知識が全くない状態で観賞した訳だが、いきなり驚いた。画面構成に一部の隙もないのだ。カメラワークも緻密で、計算に非の打ちどころがない。空撮があったり、ドリーショットも随所に現れ、フィックスやパンだけの産業映画が多い中、観客に対して、情報だけでなく、映画としての面白さが伝わることを意識されていた様に感じた。
どうやら、構成台本を元に、全カットを絵コンテに起こしていたというのだ。なるほど、だからナレーション尺ともばっちしあっていたのか。撮影された画によって、ナレーションが書き直されるというのはよくある事だが、そういう場合、語感やリズムが少しく狂うことがある。今作では、そういったものが感じられなかったので、その用意周到さに敬服する。撮影に対する拘りの強さに、これこそが仕事と呼べるものだなと痛感する。私はそれ程酒飲みではないので、この酒造の銘柄を知らなかったのだが、機会をみつけて購入してみたいと思った。

『叫びとささやき』について。
いのちの電話に寄せられた、実際の相談を基に、ドラマ部分と記録部分で描いた作品。記録部分に関しては、特段思うところはないのだが、ドラマ部分に関しては、照明に対する拘りの強さが伺える。陰影の強調された構図であったり、相談者の空虚な心情を表す際の再現描写などにも、いかに良い画を当てはめるか、という信念が感じられた。なんというか、芸術性の高い画面構成の印象が強く残ってしまったので、いのちの電話の映画であるという意味あいが、ちょっと薄まってしまった様にも感じられた。

『徒然』『十三風土記』について。
ポスプロにおけるネガ編集や音付けの作業以外を、全て一人でやりきったという『徒然』。氏が撮りたいもを撮り、観せたい画を観せるという、人物は一切登場しない情景映画。たしかに圧倒的に美しい。これでもかとフレーミングの美学を押し付けてくるのだが、一人で完結しているためか、劇中に何度も似た様な映像が散見されて、既視感が拭えない。またこれか、となってしまう。撮影期間中に阪神淡路大震災が起きたりしていて、そういったものへの怒りというか、氏の災害に対する思いも込められているのは興味深いのだが、やはり、もう少し客観性が加わっていれば、なお良い作品になっていたのではないかと思えた。
『十三風土記』に関しては、フィルムの保存状態が芳しくなく、上映に耐えるものではなかったので、冒頭の数カットのみしか観る事が出来なかった。

『村の子育て』について。これはよくある教育映画だなという印象。年代がいまひとつ判然としなかったが、80年代後半から90年代前半に撮影されたと思うのだが、当時の女性の話し方やファッションなどが、ああ、こんなお母さんいたなぁと、幼き記憶を呼び覚まされるようで、懐かしい気持ちになれた。私の育った地域では、あまり同和というものを意識することがなかったので、未だにピンときていない部分があるのだが、人はその出自にではなく、今ある姿こそが、その人そのものであると思うので、問題がある事はきちんと理解した上で、差別なき世の中になるといいなと、私個人としては思う。

生きている中で起こる偶然の出会い。これからも、そういったものを大切にしながら映画を観続けて行きたいと思う。

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