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竜とそばかすの姫 ドラゴンパートその8 ヒロちゃん無双(中編)

「本当の鈴ちゃんを知らない知ろうとしない、そんな私は鈴ちゃんも鈴ちゃんに魅せられている恵くんやトモくんも助けることができない。問題は私の心にある、そういうことなんですよね。」先生は黙ってヒロちゃんの言葉に耳をかたむけるだけです。「鈴ちゃんの今の行動原理は彼女の母親のそれに基づいています、だから私は鈴ちゃんのお父さんに聞いてみたんですよ、鈴ちゃんが昔どういう子だったのか?鈴ちゃんの母親がどういった女性だったのか?」「本当は今の鈴ちゃんが私の手から離れて勝手なことばかりするのが腹立たしかったんですよ、わたしは。だから鈴のお父さんに彼女を止めるように言いに行きました、彼女の行動を私の思うように縛りたかったんです。結局はお父さんに拒まれましたけど」「あの子はやんちゃな性格で野山をかけまわったり、人と積極的に関わってイタズラをしたり手の付けられない子供だったようです。要するにあの子は事故を境にしてから母とそっくりな自分を肯定できなくなって、それで仕方がなく私の前では扱い易いイイ子を演じていた、あの子はずっと私の前でも本当の自分を偽って、おもて顔だけの友達ごっこをしていたんだわ。」「でもそれはお互い様ですよね、わたしもわたしでそういう鈴ちゃんを自分の都合よく好き勝手に扱ってきたんだから、だから今までのことはいいんです。お互い様ですから」。

「今のすずちゃんは私には理解しがたいくらい優しい人です。弱い人・傷ついた人を見ると放ておかずには済まないんだわ。」「でも私はそういう人ではないんです、なんで自分の利益にならない、そんな面倒なだけのことに一生懸命になれるのか意味がわからない、だっていざとなったら他人なんてアテにならないでしょ?本当にそういうふうに思っているんです、弱い人がどれだけ傷つこうが何とも思わない、今だってあの兄弟のことなんかに関心が持てないんです、本当にどうでもいい、そうおもっているんです。私はそういう・・・・人です。」。「そして今の鈴ちゃんは、他人のことなんかに共感しない私を心の底から嫌な女だって軽蔑していると思います、今の鈴ちゃんなら間違いなくそう思っているでしょう」。

「一方で身勝手な私は、今の鈴ちゃんを知って、『ああ、こいつ好きだな』って思っちゃっているんですよ。鈴ちゃんと明日からもお喋りしたい、鈴ちゃんと明日からも一緒にご飯を食べたい、鈴ちゃんと明日からも遊びたい。一緒に笑っていたい。そう勝手に思っているんです。でも鈴ちゃんはこんな嫌な女と明日からも友達でいてくれるでしょうか?」。「もしかして今から電話をかけても出てくれないかもしれない。。。無視・・・されるかもしれない。。。身勝手で嫌な女な私は。。鈴ちゃんにそうされても仕方がない。そうでしょ?」

先生はヒロちゃんの話をひとしきり聞き、ゆっくりとヒロちゃんの肩に手を乗せてこう答えました「弘香。大丈夫だ。」

さてここで1時間前の鈴のお父さんのメールの送信記録を覗いてみましょう。「別役君が家に来ておまえが子供達を助けるのを手伝いたいって言ってたよ、お前の力になりたいそうだ」。そんな一言が書かれていても私は不思議には思いませんね。大人は何もかんもわからない、そんなことはないからです。


はい本番です!ここからは実況わたくしサブキタ、そして解説 別役弘香さんでお送りしたいと思います。別役さん、よろしくお願いします。「こちらこそよろしくお願いします。」現在の時間は午前の8:00です、おや?いきなり見たこともないモブキャラが恵&トモの自宅に訪問しておりますが、この方はどなたです?「ああ、コイツは恵の中学校の担任のモブ村田ですよ、ジャンプの連載終了後に仕事が無くなった『鬼滅の刃』のモブ村田は現在は都内の公立中学校の先生をしているわけです。」なるほど。どういった要件で恵&トモの自宅に訪問しているのか気にかかるところです。おっと虐待野郎は案外あっさり家の中にモブ村田を家の中に通しますね、どうしてでしょうか?「モブ村田にはUでの虐待野郎の虐待シーンを動画で送りつけてあります、そういうわけで恵くんが無事な姿をみたいのですが上がらせて頂いて宜しいでしょうか?といえば虐待野郎はモブ村田を家に上げずにはいられないわけです」。なるほど、しかし別役さんの台詞を聞くと以前からモブ村田を知っていたかのような口ぶりですが?「いいえ、昨晩はじめてしりましたよ」。どのような形で接触なされたのでしょうか?「簡単ですよ。カミシンの発見と虐待シーンで撮されたビルの影とその時間からビルからどの角度どの高度に恵の家があるのか大体は分かります。恵が通っているだろう公立中学校の場所も当たりがつきます。だから私は恵が通学している(形上は!)中学校を割り出せたんです。あとは先生の功績ですね、恵のフルネーム(パート6参照)を使い、その担任と電話でコンタクトを取り、恵の中学校の担任のモブ村田を動かしたのです。私達が恵&トモの家の住所を知ることが出来たのもモブ村田が白状したからです。」なるほど、確かに聞いてみると簡単ですが、その発想に至るまでが難しいと思わずにはいられません。家に潜入したモブ村田は何を行っているのでしょうか?「彼には恵君にプリントを、ケイ君にはビスコを与え、耳元で『BELLからだよ』と囁くように伝えてあります」それだけですか?「はい、ビスコの箱にはあと1時間以内に鈴が現れること、鈴と接触するために家から抜け出さなければいけないことをメモした紙が封入されております。またプリントには鈴がどの地点でタクシーを降り、どのようなルートで恵&トモの自宅に接近するのか地図でしるしてあります。」驚きました。貴方は恵&トモに家から脱出するようにそそのかした、そのように解釈できますが?「当然です。私たちの勝利の最低条件が鈴に子供たちを接触させ、その心を開き親の虐待を児童相談所に告発させることである以上、私たちは鈴と子供たちを接触させる方法を最初に模索しなければいけないのです、これは作戦成功の絶対条件で何をおいても先にやらなければならないことです。」「モブ村田からしたらノーリスクで本作戦に協力できますから断る理由もなでしょう、何しろ家庭訪問をしてビスコとプリントを手渡す、それだけなのですから。」モブ村田さんはもうここで用済みなのでしょうか?「いいえ、彼にはまだ利用価値があります。別の役割がありますのでとりあえずは恵&トモの自宅から更に山手に登っていただいて蝉の死骸の観察に勤しんでいただきます」なるほど、モブ村田にはまだ利用価値がある。今後の作戦に彼は欠かせないモブとして、そういうことですね。「はい」。

8:30。天気は雨です。「我々の作戦成功のためにはグッドコンディションですね。人通りが少ない、実にこちらにとって好都合です。」と言いますと?「後のお楽しみです。」・・・?。おっとここで辛抱たまらず兄弟が家をとびだしてしまいました。早すぎますねぇ。「現場の摩擦というやつですね、やはり現場は作戦指揮官の思うようにはいかないということです」。虐待野郎は彼らを追って家を飛び出します。「まぁ当然の行動です、そもそも子供たちは虐待野郎にとって玩具でもありますがアキレス腱でもあるわけです、彼らが外部と接触し、虐待の事実を告発するようであれば虐待野郎はアウトです、だから恵くんを恐怖で縛り学校に登校させなかった、更に今回はモブ村田から虐待映像の存在が外部に漏れていることを知らされています。虐待野郎にはかなりのプレッシャーがかかっているとみて間違いありません。特に重要なことをいえば学校の先生と児童相談所はホットラインで結ばれています、学校の先生から児童相談所に報告することで虐待から児童を保護した例は少なくはありません」。なるほど、児童相談所と学校の繋がりを熟知している虐待野郎は恐怖と自己保全のために恐怖で動いている、そういうことでしょうか。「まぁそうでなくとも子供たちを部屋に閉じ込めることを正義とするこの虐待野郎は必死で子供たちの後を追う。ファーブルさんから教えていただいた習性を知っていれば余裕で予測できるというもんです」。なるほど、つまりヒロちゃんはボロボロに虐待されている兄弟を囮(おとり)にして、害虫のような習性を持つ虐待野郎を外におびき出した、そういうことですね。「はい、なかなかの餌っぷりです。それが何か?」いえ実に私の好みです、なかなかにそそります。

8:35 虐待おやじが、家を飛び出して兄弟の捜索を始めましたね。鈴が兄弟と接触する前に捕まえられた場合、面倒なことになりそうです。お?モブ村田が動きだしましたね。「モブ村田にはこれから起こることを動画撮影するように依頼しています。」・・・なん・・・だと・・・?。「モブ村田が何故今回の作戦に協力しているか?それはノーリスクで生徒を救えるからです、不登校の生徒を持つ先生は大変なんですよ。それが家庭訪問とたまたまその辺を歩いていた、そんな方便だけで無駄な業務から解放されるんです。やるでしょ?」。やる価値大アリですね、ノーリスクですから。

8:40 ここで鈴ちゃんがタクシーから降り登場します。タクシーが鈴ちゃんのこの後の進行ルートの逆を向いているところから、既に鈴ちゃんが兄弟をすれ違い様に目視している可能性も考えられます。「モブ村田からの情報で兄弟と親父が家から飛び出したことは既にモブ村田⇒私(ヒロちゃん)経由で鈴に伝わっております、ここは鬼ごっこですね、虐待野郎と鈴のどちらかが先に兄弟を捕まえるか、勝負のポイントです」。なるほどだからこそ鈴は兄弟の家に一直線に向って走っているのですね、鈴の優位は目立つ行動さえすれば兄弟の目にとまり向こうから自ずと接触を図ってくれる所にあります。「兄弟が家の中に閉じこもっている限り鈴との接触の難易度は極端に高くなります。虐待おやじがいる限り、鈴が彼らの家に訪問したところで会える可能性は皆無です、また虐待野郎が外出したのを見計らって兄弟の家に訪れる方法もありますが、面白くありません。」面白くない?「はい、最低限度の勝ちでは満足できませんね。私たちが目指すのは完璧な勝利です。」・・・実況を続けます。

                             つづく

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