立ち呑み小説「冷酒は味塩で」
昔、父が私を連れて酒場に連れて行ってくれた。小上がりとカウンターのある割烹で、短冊に書かれた献立が一つ一つ壁に貼ってあった。父はそこから好きなものを食べなさいと言った。酒場にあるもので私が食べられそうなものは、卵豆腐くらいだった。
その酒場に連れられて行くと、いつも卵豆腐を頼んだ。父が酒場に私を連れて行く時は、母は来ない。母は父が金を払って他の酒場に行くことを嫌っていたし、父が行く酒場は鎌倉にあったから、電車に乗って行く。帰りには、タクシーでベロンベロンになって帰って来る。