石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも / 志貴皇子

 万葉集より。
 雪解けの流れのほとりに芽吹いた蕨。まだ地表に小さく身を屈めてはいるが、春の訪れを喜ぶかのようにしぶきを受けてきらきらと光る。
 上句は「の」が繰り返されることでテンポよく勢いをもって進む。声に出してみると、その響きはどことなく落ちてゆく水音を思わせる。下句は「萌え出づる春に」の字余りが、小さなふくらみをもって穏やかな結句へと到る。言葉どおり芽吹きの兆しのよう。一首全体が透きとおるような明るさに満ちている。

石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも / 志貴皇子