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資産形成はETFで

先日、私のセミナーに参加いただいた方とじっくりお話をする機会があった。資産形成にナスダック100に連動するETFであるQQQ(インベスコQQQトラスト・シリーズ1)が有効だという説明をしたところ、非常に強く興味を持たれたようだ。

70代男性の田中さんは、大手メーカーで米国駐在が長かった。株式投資の経験は随分長く、ITバブルでは日本株で大儲けもしたし、大損もしたそうだ。日本株では投資成果が出ないので、この1~2年で日本株から米国株式に徐々にスイッチしている。米国株式は代表的なハイテク銘柄を中心に20銘柄程度保有している。個別銘柄の売買をしているので、買値は概ね現状株価水準より少し高い。話題のIPOにも飛び乗り飛び降りをしている。

田中さんは米国駐在が長いので英語アレルギーがなかったため、米国株式を売買することへの抵抗は少ないようだ。しかし、QQQをはじめとするETFについてはよく理解できておらず個別銘柄でポートフォリオを構成していたため、不安定な運用となっていた。それで、以下のやり取りをさせていただいた。

Q:セミナーでQQQ(ナスダック100のETF、東証なら1545)を知りポートフォリオに入れた。値動き日々の値動きを見ていると、他の銘柄は大きく乱高下するのにQQQは下がらない。思った値段まで下がらないので買い場を探りかねている。高値でも買った方がいいのですか?また、そんなにQQQだけを買っていっていいものなのですか?

A: QQQはナスダック市場全3000銘柄から時価総額の大きい100銘柄をパッケージして、常時その組み入れ比重が変わる投資信託だと思ってください。そして、ここが大事なのですが、いま田中さんがお手持ちの20銘柄の多くはナスダック100の構成上位銘柄なのです。つまりQQQに既に含まれていますので、QQQを保有しているのであれば、これら個別銘柄は買う必要がないかもしれません。その分QQQを多く買うべきなのではないでしょうか。

表はナスダック100指数を構成している時価総額上位20銘柄です。知名度が高い銘柄ばかりですが、田中さんが保有している個別銘柄も多く含まれていますね。

ナスダック100(QQQ)上位組入銘柄の株価パフォーマンス

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従って、QQQを1000万円買えばその11%を占めるアップル(AAPL)を116万円、同じく11%のマイクロソフト(MSFT)を113万円買っているのと同じことになります。またアドビシステムズ(ADBE)は1.5%程度のウェイトですから15万円ほど買っていることになります。但し、直近IPOしたウーバー・テクノロジーズ(UBER)やスラック・テクノロジーズ(WORK)は入っていません。

Q:随分銘柄がかぶって(重複して)いるなあ、と感じます。

A:そうなんです。ですからQQQはこれを一銘柄と考えずに、ポートフォリオだと捉えるべきなのです。しかし、これからもっと大事なことをお伝えします。保有している多くの銘柄が、今後も有望銘柄である保証はどこにもありません。これが米国株式を理解するときの最大のキモです。

Q:QQQは世界で最も有望な銘柄群だと聞きました。これからも期待できると思って買ったのですが・・・

A:今はそう見えているかもしれません。実際に先ほどの表を見ると、例えばQQQを2015末に買うと、直近まで+78%ですから約1.8倍になっています。同じくアップルは+143%なので2.5倍近くになっています。振り返ってみると、現在の時価総額上位20銘柄を2015年末から持っていれば、20銘柄中12銘柄はQQQよりパフォーマンスが良かったのです。12銘柄の中からいくつか選んで持っていればQQQには勝てそうに思われますね。


Q:はい、私でも勝てそうだと思います。

A:しかし、それは結果論です。今の上位20銘柄はこれまでの良好なパフォーマンスのおかげで今の地位にまで上り詰めて来たのです。しかし、2015年末の段階でこれらの銘柄が4年後にトップ銘柄になっているかどうかは誰にも分かりませんでした。次の表を見てください。2000年からの20年間でQQQ(1999年3月組成)は3.4倍(+240.6%)になりました。途中2000年3月にITバルブが弾けてから2002年秋まで急落し、高値から8割水準まで落ち込んだ時期がありました。それでも3.4倍になっているのです。

2000年時点の上位10銘柄を見ると、当時随分持て囃された企業の名前が目につきますが、オラクル(ORCL)に買収されたサンマイクロシステムズや、非公開化したデル、さらに破綻してしまったワールドコムなど、その後市場から消え去ってしまった企業も多くあるのです。2000年の上位10銘柄のうち現在も存続している銘柄で、当時QQQのパフォーマンスを上回っていたのはマイクロソフトとアムジェン(AMGN)2銘柄しかありませんでした。

Q:個別銘柄でもアマゾンやアップルを買っておけば、大きなリターンが得られるのではないでしょうか。

A:2008年(金融危機前後)、2011年、そして2015年の上位10銘柄とQQQのパフォーマンスを比べても、QQQに勝つのが簡単ではないことがよく分かります。2008年以降は基本的に上昇相場でQQQを持っているだけで資産は6.7倍(+568.7%)に増えているのです。構成上位10銘柄のパフォーマンスもすべてプラスですが、10銘柄揃ってQQQを上回っているわけではありません。この10年に限ればアマゾン(AMZN)など、いくつかの銘柄を買っていればQQQを持っているより満足度が高かったかもしれませんが、それはやはり結果論です。そのアマゾンにしても一本調子で上昇してきたわけではなく、何度も急落して、その都度這い上がって今があります。ホルダーがその変動を持ち堪えるのは厳しかったかもしれません。

Q:個別銘柄で儲けるのは簡単じゃないという事ですね。確かに上昇した銘柄は証券会社から利食いしろと言われ、それでまた別の銘柄の購入を勧められる。

A:人間の銘柄選択能力などというものは、その時の空気に左右されてしまうため、どうしても人気の割高銘柄に目が行きがちです。そして利食いは出来るけど損切りするのはなかなか勇気が要ります。

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Q:QQQはETFなのですか?

A: QQQやVOO、それに東証1545は全てETF(上場投資信託)です。ETFは通常の投資信託と比べ手数料(信託報酬=維持管理手数料)が格段に安く、ただ同然といってもいいくらいです。その分手数料を稼げないため、証券マンは勧めません。ETFはあるルールに則って保有銘柄とその保有比率を決定しますから、人間の持つ感情移入や恣意性が排除されます。そしてシンプルで分かりやすい。それが長期投資にはフィットしています。

Q:個別銘柄をたくさん持つよりQQQだけでいいということですか?

A:通常、私はS&P500のETF(SPY、VOO、東証1557)を投資の基本に据えています。S&P500は500銘柄で構成され米国株式市場全体の8割弱をカバーしています。これ1銘柄で米国株式の全てをカバーしているといえます。但し、現在はハイテク銘柄が多く含まれるナスダック100のリターンがS&P500を上回っているので、セミナーではQQQを強調しました。田中さんのお手持ちの銘柄もQQQと随分重複しているのでそれならQQQがいいかなと思った次第です。通常の長期投資ならS&P500とナスダック100のETF、すなわちSPYとQQQの2銘柄を半々程度で買い進めるのが良いと思っています。管理も非常に楽になります。

SP500上位組入銘柄の株価パフォーマンス

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Q:先日大手証券の営業員にQQQを買いたいといったら、QQQは手数料が高い、9%もするので3%の投信はどうかと勧められたのですが、本当に9%もするのですか?

A:全く間違っています。営業マンが買ってほしくないから言っているのでしょう。一度ETFを買って、そのまま買い持ちされたら、証券会社は収益が上がりません。それに9%というのもウソだと思います。QQQの買い方は①日本時間の夜にNY市場で買う、②東証のETF(コード1545)を買う、③証券会社が日本の日中に提示する店頭設定価格で買う、という3通りほどあって分かりにくいのですが、件の営業マンは③の店頭設定という方法について言っているのでしょう。NYの引け値に為替や取次の手数料、さらには証券会社のリスク負担料を乗せた価格で売買ができます。日本の日中時間に、しかも円で約定できるので一見便利なようですが、コスト的には投資家には大変に不利な商品で、言葉を換えれば証券会社の営業マンの収益源となっているのです。

Q:たしかに9%と言ってました・・・
A:考えられるのは、前日のNYの引け後にアジア時間でマーケットが急騰(2%以上)して、NYの引け値ベースの値段からは随分上がった価格でしか買えない。さらに為替がドカンと円安(これも2%も?)になれば、円貨表示の価格はそれくらい高くなりますかね。もちろん往復の取引コストのことでしょうがそれでも9%はちょっと高過ぎますね。

Q:実は投資信託も持っています。1つはそれなりに上がっていますが、もう1つはそれほどでもない。しかし、営業マンは執拗に購入を勧めてきます。

A:今お持ちの投資信託はどちらも必要ないですね。徐々に売ってETFに乗り換えたらどうでしょうか。投資信託という商品は日本では証券マンの給料の原資と思えば分かりやすいです。そしてあの商品がないと証券経営が成り立たないので仕方ありません。もう何十年も前になりますが、支店営業時代に辣腕上司から「キミらなあ、投資信託を売らんことには、経営が成り立たんのや。これだけは絶対に(ノルマを)落とすなよぉ!」。このハッパが耳に焼き付いています。とにかく投信販売による安定収益がないと戦略的な企業経営ができません。その後、私は本部組織や海外駐在を経験したのですが、なぜ我々が本部でブラブラ、海外でフラフラできるのか?すべては個人営業員が頑張って投信(最近はラップ商品も)を売ってくれるからです。ここは今も変わってないと思いますよ。それ以来私は投資信託に「様」を付けて敬意を払っています(笑)。

Q:投資信託を売るのは難しいのですか?
A:私も営業マン時代には株式手数料はそれなりに数字が出来ました。しかし、あの投資信託という商品だけはどうしも理解できない。それで苦労した覚えがあります。同じ課の兄貴分は「川田、悩んでいるな。吹っ切れてないな、考えちゃダメだ」。キャンペーンの時に課長は別室に私を呼んで「川田なぁ。理屈で考えて売れる商品じゃない。俺なんかなぁ、勝負顧客には故郷青森のリンゴをドカンと送って、それから商品の中身はなんも言わんと5000万円買ってもらった。とにかくお客に考えさせちゃダメだ」と秘伝の奥義を自慢げに語りました。本来必要もないものを顧客に魅力的に見せているだけなのです。ある先輩が言っていましたが「これは無(価値)から有(手数料)を生むアートなんだ」。他にも数々の伝説があるのですが、それくらい自分で納得するのは難しい商品なんです。

これは今も昔も一緒じゃないですか?実際にこれは最近の日経の記事ですが、直近10年のリターンの質で米国株式の最も一般的な指標のS&P500指数より優れた成績を残している投信は5000本中4本だけです。この事実ははっきりと報道されています。ただし誰も問題にしません。この業界に身を置くものは、問題にすることができないのです。

Q:川田さんにもそういう時代があったのですね。ところで私のポートフォリオでは日本株の方が米国株より多いのです。以前は随分儲けましたがITバブルで大損して、その残骸とその後の買い増しで日本株がまだまだ多いのです。

A:私なら日本株は持ちません。いろいろ理由はあるのですが、とにかく米国株以上のリターンを期待する方がおかしいと私は思っています。そこは各人の考え方だと思います。
そこで、どうしても残したい銘柄を除いて、時間をかけて(これも私なら)1~2年かけて目をつぶって売って米国株式に乗り換えます。上昇して利益がでたものから売っていくと、ダメ銘柄がずっと最後まで足を引っ張ってしまうことになります。心を鬼にして、感情を入れずに売ります。これが案外難しいのですが、売ってしまうと何事も無かったかのようにすっきりします。

Q:ETFだけだと物足りなさを感じます。やはりマイクロソフトやアマゾンは個別に持っておきたいのですが?

A:ポートフォリオ全体の75%程度はQQQ(東証1545)とSPY(東証1557)の2つのETFでいいと思います。そして残りの25%程度は自分の好きな銘柄で最大5銘柄程度に抑えるべきです。私もこの10数年間は試行錯誤の繰り返しでそのスタイルに落ち着いています。
要は個別銘柄に煩わされなくても資産形成は出来るということです。田中さんの投資目的はなにですか?銘柄の当てっこで刺激を味わう事ですか、それとも資産形成ですか。もしくはその両方?

Q:やはり今後の備えだと思っています。加えて、娘が投資に全く興味がないため、私が娘の資金運用もしているのです。

A:それなら余計に投機的な投資行動は控えるべきではないでしょうか。個別銘柄での当てっこはほどほどにしておいた方がいいと思います。勢いのある個別銘柄を短期で売り買いして値ザヤを稼がないと儲けられないと思い、証券マンの言われる銘柄を中心に回転売買をしている日本人投資家が非常に多いですが、この状況は改めていかないといけないでしょう。


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