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だから、わたしたちはいまここにいる。

クリスマスに祖母が97歳の誕生日を迎えて、
その翌日に亡くなった。

ここ一年は会う度に「これが最後になるかもしれない」と覚悟をしていたけれど、何度も何度も乗り越えて、亡くなる四日前にも会えていた。

不思議な話だけど、なぜか、なんとなく、祖母は誕生日を迎えてから旅立つ気がしていた。

だから26日の早朝、母からの着信で目が覚めた瞬間全てを悟ったし、
母の「おばあちゃん行っちゃったよ」という言葉を聞いた時も、
「そうか、おばあちゃん行っちゃったのか・・・」と妙に落ち着いていた。

14年前に亡くなった祖父と祖母は、戦時中、満州で出会ったらしい。

怪我をした祖父を看護師だった祖母が看病し、二人は恋に落ちた。

「生きて日本に帰ることができたら結婚しましょう」

しかし、祖母には許婚がいた。

帰国後しばらくして、約束を果たしにきた祖父は、
祖母に許婚がいるという事実を知り、

「ばか、ばか、ばか」

と電報を送ったとか。

そして最終的に祖母は祖父を選んだという、
まるで、映画みたいな本当の話。

今みたいにインターネットのない時代、
人を探すということは簡単ではなかったはずだ。 

二人が結ばれて本当によかったと思う。 
だって当然ながら、そのおかげでわたしはいまここにいる。

元気だった頃の祖母は、安定しないわたしの仕事を実はあまり良く思っていなかった。
会うたびに小言を言われるのが嫌で、祖母に会うのが億劫で、反抗的な態度を取ってしまった時期もある。

でも、祖母がだんだんとわたしたちを認識できなくなったとき、
元気でいることが当たり前だと思っていたから、小言を言われるのが鬱陶しかったということに気が付いて、とても悲しくなった。

だってもう二度とおばあちゃんに小言を言ってはもらえないし、あの夢みたいに美味しいコロッケも、煮物も食べられないのだ。

祖母は遊びに行くと、いつも心から嬉しそうに出迎えてくれて、帰りはわたしたちの車が見えなくなるまで、ずーっと手を振りながら見送ってくれていた。

その姿が幼い頃はただ嬉しかったのに、
成長するにつれてなんだか切なくなって、
大人になってからはこの姿を見られなくなる「いつか」を想像しては毎回ちょっと泣いていた。

晩年は認知症が少しずつ、少しずつ進み、
いよいよ施設に入る日、両親や叔母と共に、わたしも引越しの手伝いをした。
荷解きをし、落ち着いた時、
「ここがわたしの終の住処。」と、少し寂しそうに微笑んでいた祖母の顔を今でも時々思い出す。

そして、施設に入ってからも同じようにいつだってわたしたちが部屋を出るその瞬間まで手を振ってくれていた。

会う度に小さくなる祖母、
そしてだんだん「えりちゃん」がでてこなくなった。

いつだったかは30代のわたしに「何年生になったの?」と言ったかと思えば、「それで、なんでまだ結婚しないの?」と一瞬だけ正気に戻ったこともあった笑。
きっと孫全員の花嫁、花婿姿を元気なうちに見たかったんだろうなぁ。

最近は会いに行ってもいつも眠っていて、声をかけてもわずかに反応がある、そんな感じだったのに、
わたしが会えた最後の日は、しっかりと目を開けてこちらを見つめていた。
不思議だけど、その目は「認知症の祖母」ではなく、
間違いなくわたしたちの「おばあちゃん」だと思った。

実のところ、わたしは「認知症の祖母」と「おばあちゃん」が同一人物なのに、なんだか別の人みたいな感覚で、だからどうしてもおばあちゃんが亡くなった実感がわかず、おばあちゃんとは別の、「認知症の祖母」が亡くなった、うまく言えないけれど、少しだけ遠い存在の人の死として受け止めていた。

でもいま、おばあちゃんについて書いていて、
ようやく記憶と記憶と今が繋がった。

あぁ、そうか、落ち着いていたわけではなく、実感がなかっただけなんだ。

おばあちゃんが死んじゃった。
おばあちゃんにはもう会えない。
なんて淋しくて、悲しいんだろう。

わたしも間もなくアラフォー世代に入るわけだから、仕方のないこととと言えばそうなんだけど、
ついにわたしには「おばあちゃん」も「おじいちゃん」もいなくなってしまった。

いくつになってもお別れは嫌だし、
本音はもう誰とも、お別れはしたくない。

でもそれは絶対にかなわないこと。

だからわたしは今日もしっかり食べて、寝て、笑って、泣いて、周りにしっかり感謝をして、ありがとうを伝えて、そうやって悔いの残らない毎日を過ごしたいし、過ごさなければいけないのだ。

それにしても、12月25日が誕生日で12月26日を命日にしちゃうところがなんともわたしたちのおばあちゃんらしいよ笑。

おじいちゃん、あの時おばあちゃんを諦めないでくれてありがとう。 
おばあちゃん、おじいちゃんを選んでくれてありがとう。

いつかまた一緒に笑いすぎて泣いちゃおうね。













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