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物持ちの悩み


「楽しめるものは多いのだがね」
「何か問題でも」
「実際に楽しめるかどうかは、やってみないと分からない。しかし楽しめる可能性は他のものよりも高い。だから楽しめるはずだという頭がある。この頭が邪魔をし、期待するだけに期待以下が来るとがっかりする。だが、他のものに比べ、格段と良いものなので、悪くはないのだがね」
「何か複雑ですねえ」
「楽しめるものが多いと困る。何もないところに一つだけぽつりと楽しめるものがあれば、問題はない。それしかないんだからね」
「比べるものがないと?」
「あるだろが、近くにはないし、また手に入るものだとしても、何処にあるのかは分からない。あることは分かっていてもね」
「贅沢な話ですねえ。楽しめるものが多いと」
「物持ちの悩みのようなものじゃよ」
「そんな悩みを持ちたいものです」
「しかしじゃ、楽しめるはずのものが楽しめないとかが起こり、これは損をしているようなもの」
「一つ教えてもらいたいのですが」
「何かね」
「楽しめるはずのものが楽しめないとはどういうことでしょうか」
「そのものが楽しいのではない。楽しく思えるかどうかはこちらにかかっている。だから人が楽しいとは思えないようなことでも、別の人なら十分楽しめるということだな」
「ありそうですねえ」
「楽しがれるはずだが、実際には楽しいという気持ちにならなかったりする」
「それは楽しさに麻痺しているためでしょうか」
「それもあるねえ」
「麻痺するほど楽しいものがあるなんて、うらやましい」
「麻痺すると楽しめない。だから駄目だ」
「はあ」
「逆に、これはそれほど楽しめないだろうと思うものが意外と楽しかったりする。皮肉なことにね」
「では、どう言うのが真に楽しいのですか」
「そのものにはそれはない」
「じゃ、受け取り方ですか」
「楽しいと思えるかどうかは本人次第。それは気持ちが動くかどうか、体験しないと分からない」
「でも可能性の高いものがあるでしょ」
「楽しめるはずものがね」
「はい」
「はずのもの。予想だ。実際とは違う」
「どうして違いが出るのでしょう」
「わしの感受性も変わっていくのじゃろう」
「そのものは変わらないに」
「そう、わしが変わってしまうのじゃ」
「それはいいことですか」
「違う感じが欲しい」
「それが答えですか」
「贅沢な話だろ」
「はい、そんな苦労をしてみたいです」
「うむ」
 
   了

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