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お大事に


「魔物の多くいる村ですか?」
「探しております」
「はて、魔物とは何を差すのでしょうか」
「妖しいもの」
「怪しいものならどの村にもいますが」
「ただの怪しさではない。人とは違うような在りよう」
「じゃ、獣の多い村ですかな。いくらでもそんな村はありますよ。まあ、村内にはいないでしょうが、裏山に入れば、それなりにいるかと」
「魔獣です」
「ただの獣ではないと」
「探しています」
「とんと噂は聞きませんなあ、狐狸の噂なら何処の村にもありますが、その魔獣に当てはまるかどうか」
「九尾の狐なら」
「それが、魔獣というやつですか。聞いたことはあります。八岐大蛇もその類でしょうなあ」
「いませんか」
「いたら大騒ぎでしょ。既に噂は広がり、あなたもご存じのはず」
「そうですねえ」
「残念ですが、思い当たるものがありません。私は人からものを聞かれるのが好きでしてね。知っていることならいくらでもお話ししますのに」
「人の姿をした術者ならご存じかも」
「ああ、村巫女のことですな。この村にもいますが、そんな術は使えません。皆知っていること」
「その巫女は普通の人ですか」
「はい、誰でもなれます。一人、そういう人が村には必要なのです」
「では、本人は妖しくないのですね」
「そんな力はないようです」
「ありがとうございました。参考になりました」
「ところで、あなた」
「はい、なんでしょうか」
「どうしてそんな、いないようなものを探しておられるのですかな」
「村内にはいないようです」
「おれば村では暮らせません。人の場合でも獣の場合でも」
「では、山とか海の果ての孤島にならいるとでも。できれば近場で」
「どうして探しておられるのですかな」
「弟子にしてもらい、そういう法力のようなものが覚えたいからです」
「それは邪の力。おやめさない」
「はい、それ以前に探しても見つかりませんので、弟子云々などないようなものです」
「それが分かっておられるのに、どうして探しているのかな」
「探している間に、いろいろと知らないことが分かるからです」
「あ、そう」
「では、他を探してみます」
「はい、お大事に」
 
   了

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