高校サッカー 中編

 高校サッカーには大きな大会が3つある。
 関東大会、インターハイ、そして全国選手権大会。
 僕が高校2年生の時のサッカー部はタレントもかなり揃っており、全国大会を本気で目指せるメンバーだったと思う。
 当時、神奈川は2強と言われていた。その2つは桐光学園と桐蔭学園。その2強を崩すのがその頃の僕たちの1番の目標だった。
 厳しい練習に耐え、レベルアップしていった僕たちでもなかなかその2強を崩せるまでにはいかなかった。関東大会もインターハイも、いずれも桐光学園に敗れて敗退。そして先輩たちにとって最後の大会である選手権予選が始まった。
 僕らはベスト8まで順調に勝ち進んでいったが、準々決勝で当たることになったのは、その年一度も勝てていない桐光学園だった。

 その頃の先輩とのやりとりを今でも覚えている。
 桐光学園との試合を翌日に控えた練習で、僕たち2年生は3年生に向かって『今日で先輩たちと練習をやれるのも最後か〜』と言うと、先輩たちが『縁起でもないこと言うな!笑』と笑いながら返してくれた。

 このやりとりでもわかるように、僕たち2年生と3年生はとても良い関係にあった。もちろん心の中では、絶対に引退なんてさせてたまるか!と思っていた。

 そして迎えた試合当日。僕はベンチスタート。同じポジションを争う先輩からスタメンを奪えずにいた。
それでも今と当時も一緒なのは、スタメンでも途中出場でもチームを勝たせたいという気持ちは変わらないということだ。
途中から出ても、短い時間でもチームの勝利に何が必要なのか。それを意識してプレーしていた。

 試合はお互いに一歩も譲らない展開になった。サッカーの面白いところは相手との実力差があっても勝つことがあること。

チームの総合力では間違いなく桐光学園が上だった。それでも最後まであきらめなかった僕たちに神様は微笑んでくれた。

 延長戦のVゴールをうちの2年生FWが決めて見事勝利。ずっと勝てなかった相手に遂に勝てたのだ。勝てた喜びと、まだ大好きな先輩達と一緒にサッカーができる喜びに僕は安堵した。

 それでも……神奈川県予選を勝ち抜くにはあと2試合残っている。次の日から優勝に向けての練習がまた始まった。
今思うと、僕はこのとき自分のことよりも「3年生のために!」。そう思ってサッカーをしていた。
 自分のためじゃなく、誰かのために頑張ろうという気持ちは、プロサッカー選手になった今でも自分にとって大切にしていることの1つだ。
 
そして準決勝の日が来た。この日も僕はベンチスタート。
試合はまた延長戦までもつれこむ白熱の試合に。僕が当時使われていたポジションは右サイドハーフ。
いつも練習が終わった後、残ってFWの先輩とセンタリングからのシュート練習をしていた。
その先輩とはいつも途中から試合に使われていて、流れを変えるようなタイミングで2人ともピッチへと送り出されていた。
何本も何本も繰り返し、自分たちの型を作る。そして途中から試合に出た僕と先輩に、その練習でやっていた場面と全く同じ場面が訪れた。

 僕が相手をドリブルで抜いてクロスをあげる。それはもう、まるでデジャヴのような瞬間だった。
毎日繰り返し練習をしていたから、先輩を見なくてもそこに先輩がいることがわかった。僕のクロスを先輩が頭で押し込み、Vゴール。

 僕はその時のボールの感触を今でも少しだけ覚えている。それはサッカーをやっていて、初めて練習は嘘をつかないということが実感できたプレーだったからだ。

 この試合で勢いに乗った僕たちは、決勝戦にも勝ち、麻布大学付属高校サッカー部として初めて選手権の舞台に立つことになった。