高校サッカー前編

高校に入学した当初、僕の身長はまだ160センチあるかないかだった。

スピードもなく、筋肉もない。他の選手よりも少しだけ技術が高かったが、1年生から試合に絡めるような選手では全くなかった。

部員は1年〜3年で70人〜80人くらいいただろうか。そんな中、1年からトップチームに上がる選手が何人かいた。

 
その中の1人が今、名古屋グランパスエイトにいる太田宏介だ。宏介とは小学生の頃から町田の選抜や東京選抜、関東選抜と共に選ばれてきた仲間であり、ライバルでもあった。

 
宏介は、成長の遅かった僕とは違い、高校入学の時から体もそこそこできていて身長も高く、足も速かった。
小学生の頃は自分と同じくらいの実力だった選手に、先を越されている感じがしてすごく悔しかったのを覚えている。

 
1年生やベンチに入れないメンバーは、トップチームが紅白戦などをしているときは、いつもグランドの隅でミニゲームをしていた。
ミニゲームはふざけながらやっている選手もいて、紅白戦をガチンコでやっている先輩や宏介たちを見て、いつも羨ましく思っていた。

 
早く俺もあそこでやりたい。

 
そう思っていた記憶がすごくある。それから月日が経ち、自分が高校1年の時の全国高校サッカー選手権大会。
3年生にとっては最後の大会。僕はもちろんベンチ外。3年生や2年生を一生懸命応援したが、かなり早い段階で負けてしまった。
3年生はすごく優しい人たちが多かったから、自分は試合に出られなかったけどすごく悔しかった。

 
高校サッカーを経験している人なら誰しも思うことがあるだろう。
 
それは1年生にとって、3年生はいつも憧れであり目標であるということ。
本当にカッコよくて、あんなふうになりたいといつも応援しながら思っていた。だけど選手権で負けてしまった以上、次の日から新チームが始まる。悲しんでばかりいられない。
この日から監督にアピールする日々が始まった。

 
3年生が引退した後、チームは上からAチームBチームCチームDチームに分けられた。3年生が引退しても僕の最初のチームでの立ち位置はCチームだった。

 
しかし、ここから僕の怒涛の追い上げが始まる。この頃くらいから僕は身長が伸び始め、徐々にスピードがついてきていた。そして今でも武器にしているジャンプ力がこの時期にいきなり覚醒した。
 

今まで持っていた技術に加えフィジカル面が伸び、自分でも驚くくらいの成長を感じ始めた。

Cチームが参加する遠征大会で僕は活躍し、遠征から帰ってきた次の日から始まるBチームの合宿に呼ばれることになった。そしてBチームの遠征でも活躍した僕は、そのあとに行われるAチームの遠征にまで呼ばれるようになる。
 
トントン拍子でトップチームまで来てしまい、自分の思考がついていかなかったのをよく覚えている。
トップチームには小学生の頃からずっとライバル関係にあった宏介がいて、やっと追いついたと思えた。
CチームからAチームにあがった僕は、最初はサッカーのテンポについていくのがやっとだった。
それでもCチームにいた選手たちとはサッカーに対する意識が全く違ったから、とにかく練習がすごく楽しかった。
 
レベルの高い中で練習をすることで、うまくなっていくのが自分でもわかった。
今の自分からはちょっと考えられないが、高校生の頃の僕はアシストやテクニカルなプレーをするのが大好きだった。
その中でも1番好きだったプレーはファンタジーなプレーだった。
 
仲間と連携して相手の想像を超えるようなプレー。ワクワクするプレーができた時に1番の喜びを感じていた。
だから当時のポジションはMF。トップ下やサイドハーフを任されていた。
僕の1つ上に背番号10番をつけているエースがいた。
その先輩はとにかくカッコ良くて、ドリブルやサッカーセンス、すべてが自分の目標だった。

あとは1つ上のキャプテンの存在。この人がもうめちゃくちゃカッコ良かった。
普段はニコニコしているのに、試合になると人が変わる。誰よりも熱く、誰よりも勝利に貪欲だった。
 
今でも覚えているのが大会の予選で、格下の相手にチームがフワッと試合に入ってしまった時があった。
チームのみんながどうせ勝てるだろう。そのうち点が入るだろうと。

どこかで気を抜いてプレーをしている時に、キャプテンが相手に激しいスライディングでボールを奪い取り『集中しろ!足元すくわれるぞ!』と叫んだ。

 この瞬間、頭を何かで思いっきり殴られた感覚があった。
このキャプテンの一言でチームは調子を取り戻し、試合に勝つこともできた。
そのキャプテンとは今でもよく連絡を取り合う中で、僕がフロンターレで3年間キャプテンをやった時には、キャプテンの在り方について相談したこともあった。

そして自分の中でのキャプテン像はいつもこの人だった。

それくらいこの人との出会いは僕にとって大きかった。