世の常

 恋人はよく言っていた。映画やドラマ、音楽などを何度も見ると、いつも感じ方が違うと。当時の僕はそうかもしれないなくらいにしか思っていなかった。でも恋人が言っていたことは僕が思う次元を疾うに越えていた。

 僕は恋人のおかげで、今までの僕では考えられない貴重な体験をしてきた。そう感じたのは二人で沢山の作品を観ていく中で「これ僕と似てるな」とか「恋人はこういう考えを持っていたのか」とか「以前こんな事を恋人にしてしまったな」とか、自分に重なる部分が多くあったからだ。

 さらに詳しく言うと、二人で一緒に暮らし、段々すれ違っていく映画だったり、何度も嘘を重ねていた主人公が罪を償うドラマだったり、成し遂げられなかった後悔を歌う音楽だったり。ほぼ後悔でしかないのだが。

 ふとここで、みんな同じ道を通るのではないかと思った。以前恋人に抱いた「いつも僕の踏んだ道は既に恋人が通った道だ」という感情も間違いではなく、全ての人に共通していて、みんな一本の成長の道を辿っているのかもしれないと思った。そう考えると、恋人が今まで僕に教えようとしてくれていたこの世の真理という名のものは存在し、恋人は既にそれを手にしていると言える。


 この世の中にはごく僅かにこの世の真理を知っている人がいると僕は思う。その一人が恋人だ。僕のオンリーワンで憧れの存在だ。そんな恋人をみんなに自慢したい。僕の恋人はこの世の真理を知っている人だぞと。でもこれも誰かにとっては世の常なのかもしれない。

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