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沈黙の卒業

先日知人から「川口くんは感受性が死んでいる。音楽をやっている人とは思えない」と実にショッキングなことを言われた。


動物系の泣けるアニメをお勧めされて、まあぶっちゃけつまんなくて時間を無駄にしたので、ちょっとした怒りを込めて「100万回くらい見たことある話だし見た瞬間にオチがわかった。そりゃー飼ってたペットが死んだら泣くのは分かるけど、それ以上でも以下でもない話だった」とコメントしたところ、↑の発言が返ってきた。


映画『アポロ13』を観ると必ず号泣するし、自分では人並み程度に感受性は豊かなつもりでいたので、心の中で反発していた。しかしもしかしたら知人のコメント通りかもしれない、と今思い始めている。


先週のミュージックステーションをご覧になっただろうか。「卒業式で歌われる曲特集」が放送されていた。

僕はライムスター feat.岡村ちゃんを目当てに観ていたのだが、彼らの出番がラストだったため、自然に卒業式特集も観ることになった。


そこに映っていたのは全国の卒業式でむせび泣き、抱き合い、別れを惜しむ学生たちの姿。部活の仲間たちと、勝てなかったあの試合を思い出し、でもその悔しさも今となっては俺たちの宝物だよな、と笑い合い、そしてGreeeeNの「遥か」を絶唱する。さよ~なら~!

(ちなみにあの曲が「遥か」というタイトルだと今調べて初めて知った。「サヨナラ」だと思っていた。)


これだ。これを経験していないのだ。

翌日美容室に行ったので、さっそく美容師さん方に聞いてみた。「卒業式、泣きましたか?」

結果、「泣いた」100%。

やっぱりそうだ。あれを経験してないことで、人として育まれるべき当然の感受性が死んでしまったのだ。



高校の卒業式(中高一貫なので中学の卒業式はなし)。

泣いてはいないが記憶にのこっている日。


高校の最後の方は授業もなく、ずっと休みだったのに卒業式で久々に登校しなければいけないということでとてもダルかった。僕だけがダルかったわけではなく、学年全体に「ダルいな~、このままフェイドアウトでいいっしょ」という空気が流れていた。

僕の通う高校は、校風なのか分からないが、ほとんどの生徒が母校になんの思い入れも持っていなかったのだ。

式の最中もそのダルい空気は続いていた。卒業証書授与のため名前を呼ばれ立ち上がる生徒。その立ち方も「ハイッ!」ではなく、「でぃ~」みたいな感じだった。

こないだのMステでやっていた「卒業式に歌う歌」なんてなかった。2曲ある校歌のうち、メインの方を歌って終わりだ。何故かやたら照明が暗かったのを覚えている。


式の後。慣れ親しんだ教室に集まり、教師も含め皆で弁当を食べた。ちゃんとした情緒が育まれている学生たちであれば、そこで思い出を語り合い、泣く人間も出るのだろう。こないだテレビで見た卒業式はそんな感じだった。

僕が経験した卒業式後の教室は、無言だった。

話すことがなかった。とりま弁当食って帰るべ、と全員が思っていたと思う。途中、お調子者のコバヤシ君が「おい、まさかの無言かよ!」と突っ込んだが、乾いた笑いを生んだだけでまたすぐに沈黙が流れた。

なんと信じがたいことに一番最初に先生が帰った。「じゃ、お疲れ~い」。

高3の担任は現国のM先生。現国の教師なら一人一人の名前の由来言って激励するとこじゃないのか…。

それを合図にみんなパラパラと教室を出だした。コバヤシ君も、もう何も言わなかった。


さて、学校近辺で仲のいいグループと合流したものの、「どうする?」「カラオケか」「うーん、俺は寝る」とどんどんメンバーが減り、残ったのは3人。

カラオケで歌ったのはもちろんGreeeeNではなく(まだデビューしてなかったからね)、黒夢メドレー。

シメに3人でメタリカの「Battery」を絶唱し、さっさと別れた。中高6年続いたグループのメンバー達だが、その後今に至るまで一度も会っていない。連絡先も知らない。


今思い出しても何の感慨もない。後悔もない。

ただ、これでは確かに青春時代に友情を育み、大事な仲間との別れを経験し、そして成長した人たちと、感受性に大きな差が出てしまうのも無理はない。


かつて尾崎豊は「卒業して一体なにわかるというのか」と歌った。

今になってわかった。多分人生ミスった、と。

それでは皆様、このへんで。僕は絶望の中泣きながら寝ることにします。さよ~なら~!

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