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眩い漆黒の旋律との邂逅

バンドをやっているので、ライブで共演した方やラジオ番組などで、「どんな音楽に影響を受けましたか?」と聞かれることがある。

これはとても困る質問だ。基本的にこちとら金がない青春時代、中古CD屋の500円コーナーで育ったため、おそらく質問者の方がご存じのミュージシャンからは影響を受けていないのだ。

「ビートルズです!」とか言えたらいいのだけど、残念ながら500円コーナーに限って言うと、映画『イェスタデイ』並みにビートルズは存在しないバンドだった。

そのため、例えば「Mansunですね!やっぱSIXは別格なんすけど、駄作呼ばわりのLittle Kixも渋くていいんですよ。てか解散後に出たKLEPTOMANIAが一番歌い方がキモくて…」

とか言うと「へえ」という懐かしのトリビアボタンと同じ返答が、しかしトリビアとは全く違うニュアンスで返ってきてしまう。(500円コーナーの代表にしてしまったMansunさんごめんなさい)


僕も質問者の方を困らせたくはないし、自分も悲しい思いをしたくないので、必死に落としどころを探すことになる。ちゃんと誰に言っても知っていて、かつウソにならないミュージシャン/バンドだ。

数年前に考えて見つけた答えは、日本のナンバーワンロックバンドTHE YELLOW MONKEY。初めて買ったCDは「Spark」だし…ということで「イエモンですっ!」と勢いよく答えると、結構な確率で「へえ」もしくは「はあ」と言われた。

無理もない。数年前は解散中だったし、多分その時の質問者は若いギャルだったのだ。ナンバーワンロックバンドもギャルには知られていなかった。

そこで次の段階では「宇多田ヒカルさんです」と答えていた。これは苦しい。確かに大好きで聴いてるけど、年齢的にもほぼ同世代、影響を受けたかというと特に受けてはいないと思う。

もちろん反応は悪くないが、「宇多田さんのどういうところが?」などと掘り下げられると中々出てこない。「あ…まあ歌うまいとことか…あと美人っすよね」しか言えない自分が耐えられなくなり、数回で終わった。


そんなこんなで当然その質問自体が嫌になり、何周も考えたあげく色々諦めた現在、どう答えているかというと、「ビジュアル系っすね」だ。

少し投げやりに「ビジュアル系っすね」と答えている。


ビジュアル系。これは実は蔑称でもあるため、中々つかいどころが難しいのだが、僕は全くここに差別的なニュアンスを含んでいないことを先に言っておきたい。

なぜ「ビジュアル系」という呼び方を、そう呼ばれたバンドさんが嫌うかも何となくわかっているつもりだが、やっぱりラルクもグレイもうちの父ちゃん母ちゃんにとっては特に差別意識なく「ビジュアル系」なのだ。今回はそこの意識に合わせて書くことにする。


小6の時にTHE YELLOW MONKEYにショックを受けて以来、何となく同じようにケバい恰好をしたお兄ちゃんたちのロックを聴くようになっていた(ZIGGYやすかんちなど)。当時お小遣いは月1000円。どこで音源を手に入れるかというと、CDのレンタルをしていた区立図書館だった。

川口少年は当時流行っていたミスターチルさんやスピッさんには目もくれず、「羊の皮を引きちぎり押さえる欲望を殺す~」みたいな歌詞の曲に夢中になっていったのだ。しかも図書館レンタルだからちょっと古いやつ。


中1の時、SHAZNAらの登場を契機として空前のビジュアル系ブームが巻き起こる。「Break Out!」というビジュアル系バンドのみを特集したTV番組が毎週やっていたくらい、世間的にもビジュアル系バンドはブームだった。

中学のクラスでもやれピエロがどうしたラピュータがどうしたと、フランス語とかが飛び交う知的な会話がなされていた。

当時の僕の推しバンドはこんな感じだ。(思い出せる限り)

MALICE MIZER、cali≠gari、La'cryma Christi、Dir en grey(当時の表記)、FANATIC♢CRISIS、ROUAGE、LAREINE などなど…

何かの暗号ですか?と思う方もいるかもしれないが、全部バンド名である。

僕と同世代の方やちょい上の方は、↑の名前の羅列を見ただけで涙ぐんでしまう方もいるのではないだろうか。そのくらい多くの少年少女の心に深い傷を刻み、ブーム終焉後、活動を辞めるバンドも多くいれば今でも続けている素晴らしいバンドもいた。

(でもカリガリとディルは現役で最高だし、↑に挙げたような方々は今でも何らかの形でやってる方が多そうですね。もっと思い出せないしょうもないバンドとかがいたはず…)


そして中2の時、僕は歴史をさかのぼるかたちで、それらのビジュアル系バンド達の元祖(1987年デビュー)のひとつ、「BUCK-TICK」と出会う。

BUCK-TICKについては書き出すと5億文字を超えてしまうので割愛するが、影響を受けた音楽を聞かれて「ビジュアル系っすね」と言うとき、実は心の中では「BUCK-TICKです」と言っている。

もしくはおなじくらい大好きな「SOFT BALLET」「Guniw Tools」といったバンドが心の中には浮かんでいる。これらのバンドはそれぞれが全く違う音楽性なのだが、上記の通り当時のうちの母は全部ひっくるめて「あんたビジュアル系ばっか聴いて(心の状態)大丈夫?」と心配していたので、嘘ではないのだ。

「バクチクです」というと「へえ」もしくは「はあ」と言われるところ、「ビジュアル系です」というと何となく相手様にもイメージできるし、「あ、ラルクとかっすか?」と聞く人が聞いたらぶん殴られそうな返しをされても「そうです!世代ですから!」と快活に答えることができる。割と便利な返答なのだ。


逆に、BUCK-TICKを知っていそうな世代や文化圏の方には「ビジュアル系」で逃げずに正直に言うようにしている。

ただここでもう一つ問題があって、自分がやっている音楽とあまりにもかけ離れているため「えっ、どこにBUCK-TICKの影響が?まあいいや、あんま触れんとこ~」というニュアンスで「へえ」もしくは「はあ」と言われてしまうのだ。


というわけで、影響を受けた音楽を聞くのはやめてください。

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