一歩先の
会話の中では最早、礼儀というくらいに当たり前に聞かれることであり、長く住んでいるうちに、それに対してある程度
電話口の「もしもし」とか
出会い頭の「こんにちは」くらい自然に
最早考えることでもなく、決まっている返答がある。
①鹿児島は夏と冬が長くて、春と秋が一瞬で過ぎていくから、四季があるのが嬉しい。
②子どもみたいに楽しんで生きている大人が多くて、何でも大抵のことは、自分でできてしまう大人が多い
これがいつもの答え。あとはその時の会話でプラス何個か、付け加えたりしている。
でも①に関していえば、川根も温暖化の影響か、少しずつ春と秋が短くなってしまっている気がする。だんだん、この答えは、しっくりこなくなるのかもしれない。
鹿児島は東南アジアのような気候になるかもしれないし、川根はむしろ、鹿児島のような気候になっていくのかも。
②に関しては、今も変わらない。
10年いれば、やっぱり皆んな歳をとって、お別れした人もいる。
今年、川根が大好きになる思い出をたくさんくれた方が、旅立ってしまった。
②の答えは、いつもその人を真っ先に思いながら答えていた。
その人で一番印象的なのは、遊ぶように、子どもみたいにお茶を作り、お茶のことを語っている姿。
私は20代前半で、川根にきてその人と知り合った。
当時「緑のふるさと協力隊」をやっていて、町にどっぷり浸かるのが目的だったから、公式に、町から出てはいけないというルールがあった。
※ぎり生活に必要なウェルシア(旧ウィンダーランド)とか、コメリまではなんとか許容範囲だった。
基本的に帰省もNGで、年末年始も含め、協力隊の1年は、ほぼ川根にいた。
そんな環境だったから、こっそり川根以外の場所にも行ってみるかと、その人に誘われて、お茶に関するいろんなところに行った。(休みの日だったけど、本当はこれも町から出ることになるので、NGのルールだった気がする)
その人とのお出かけは、いつもアドベンチャーだった。
例えばの集落を通り、今では黄金緑で有名になった、Sさんのところに連れて行ってもらった時のこと。
(あまり車なんて通らないから)リードを付けていない犬が普通に道にいて、全速力で私たちが乗っている車を追いかけてくるような道を通って行った。目的地は山の上で、そこに行くまでがこれまた横が崖の道で、車が落ちないかヒヤヒヤしながら登った先に、優しい園主と絶景の茶畑を見た。
他にも台湾烏龍茶の研修の見学に丸子に行ったり、女性で紅茶師をしている方のツアーに参加したり、アジサイのお茶など変わり種を持ち寄って開かれたお茶会に連れて行ってもらったりした。
私の地元もお茶の産地だけど、あまりにも日常で気づかなかった。
お茶自体がこんな面白くて、心からお茶を面白いと思って作る人たちがたくさんいるんだな、と、一歩先の世界を見せてもらった。そんな方達と楽しくおしゃべりしているその人の姿が、とても無邪気だった。
もちろん他にも、川根でたくさんの茶農家さんに出会い、お世話になり、益々お茶の世界が、川根茶が好きになって、日本茶インストラクターの資格を取ったり、今では自分でもお茶を作るようになっている・・
また話は変わり、今年、甥っ子のために、鯉のぼりを立てたんだけど、それがすごかった。
山から杉の木を切り出してきて、仲間に助けを借りてそれを家まで運んできて、皮を剥いだ。
土を深く掘って木を組んで土台を作り、様々な山の道具を駆使して、支柱となる木を地面に立て、しっかりと埋めて、補強を施した。
そこに鯉のぼりを泳がせて・・・
鯉のぼりは見たこともないほど高く上がった。
こんな方法で鯉のぼりを立てるの?と本当に驚いたし、それをやってのけてしまう仲間の人たちを、改めて尊敬した。
学生でまだ社会を知らなかった私は、川根にきて、会社のルールよりも先に、「川根」のことを教わった。
生活のこと、食べ物や暮らしのこと、伝統・文化、山や鳥などの自然のこと、人の温かさ。
これまでも沢山教わったし、今でもまだまだ、驚くこと、感動すること、心に沁みることがある。
川根本町は、私の想像の、一歩先を見せてくれるところ。
◼︎書き手:綿津実(ワタツミ)
鹿児島県出身。2017年〜本格的に川根本町へ移住。細々と物語を書いています。
◼︎参加作品 電子書籍ベリショーズVol.10〜13
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