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ギフデット 言霊編 その5

4
「ねぇ、もうやめようよ。」
彼女が言う。眠らせたはずなのに。
「全部覚えているよ。リュウがやってくれたこと全部、死体を埋めて、周りの人にまじないをかけて。でも、だめだよ。私のためにしてくれたのは、わかるけど。」
彼女が何か言っている。なんで催眠が効いていないのだろうか。
「心と同じであれば言霊。けどさ、心で思っていることと実際に喋ることはイコールじゃないよ。」
いつのまにかそこに誰かがいた。所長さんと彼女がいったのでこいつがさっきの探偵の雇い主なのだろう。
「優しいよね君。だから、死ねと口でいっても心で思うことができなかった。忘れろといっても、心の何処かで覚えていて欲しかった。強欲で自分勝手なやつが使えば世界さえもいのままだったのに。」
そうか。俺の能力は、言葉を使って操っていたわけじゃなかったのか。心で思ったことを強要させる。そして心で思ったことを出力するのに言葉を発する必要があったのか。
「馬鹿じゃん、俺、覚悟決めたはずなんだけどな。こんな半端になっちまうなんて。」
「いや、いいでしょ。実際誰も殺してないんだから。あ、さっきのやつも車に轢かれただけで生きてるから。」
だがそのせいで彼女は、もうどこにもいけないわけだ。俺は悪魔になりきれなかった。
「リュウ大丈夫だよ。私持つよ。黒井が悪い人でリュウが助けてくれたって証言して。刑期も短くなるよ。あいつ犯罪歴あったし、だから自首しようよ。」
ああどうやら神様ってのは、いるみたいだな。俺は彼女と一緒にいた記憶を残したいがために彼女の記憶を消して、離れることも、誰かを殺して一緒に逃げることもできなかった。でも、彼女を守ることはできたのだ。
「そうだな。自首しようと思うよ。待っててくれるのか。」
「もちろんだよ。だってリュウが私のヒーローなんだから。」
その言葉を聞けて安心したよ。お休み。そして、
「他の別のやつと幸せになってくれ。」意識を失って倒れそうな彼女を捕まえてソファに寝かせた。もう大丈夫だ。覚悟は決まった。
「すごいね、能力の進化スピード。口から言わなくてもかけれるんだ。でも、口から出る言葉は、嘘ばかりだね。」「呪いみたいな催眠かけたくないだろ。俺が死んでも俺に縛られたら、刑務所といっしょじゃねーか。」
俺のギフトは、人の心を読むこと。そしてその代償は、言ったことを相手に強要させること。いや、心に思ったことを相手に強要させることだ。どんなに強いやつでも思考がわかってるならどうにかなる。こいつの記憶を奪って俺だけが刑務所にはいる。彼女は俺が催眠で操っていた、かわいそうな被害者になるんだから。さあ俺のこと忘れろ。
「あ、あれなんでここにいるんだっけ。」
対策何もしてないのか。効かないのは想定通りだっていって心を読みながらその対策を打ち破ろうと身構えたがそんな必要なかったのか。
「え、あー、なるほど、とりあえずこいつが犯人ね。オッケー。」
いや、やっぱり対策があった。ならこちらも心を読んで………
「やっつけちゃってください。」「手加減しろよ。」
「いけますよ。そのまま。」「結局、対策ないじゃん。」「無駄な抵抗ご苦労さま。」「別にあんたのためじゃないんだから。」「が、頑張って。」「こっちも能力使おうよ。」「やっちゃってください。」「負けませんよ。」「いい人だね。」「このままでいいのかな。」
「まぁ、大丈夫しょ。」「彼女思いでいい人じゃん。」
「頑張るっす。」「この人怖いね。」……………………
なんだコレ、何人いるんだ。どれが俺の前にいる所長ってやつの考えなんだ。そういえば、探偵事務所のお客様声のページをみたとき変だと思ったんだ。所長の人柄が、全然違っていて何人かいるんじゃないかって。こいつまさか多重人格者か。クソ。だがな、催眠が効くんなら問題ない。壁に頭ぶつけてくたばれよ。
「あれ、体が勝手に。」
ドンッと音を立てて壁に頭がめり込んだぞ。これでいい。1人殺しても2人殺してもかわらねえ。最後に、俺を殺すしな。
「痛いね。全くまだ、話している最中じゃん。」
意味がわからない。なんでこいつ血一つ出てないんだ。
「あ、形、変わらないよ。そういう能力なんだ。だから傷つかない。」
だったら、別の催眠を、
「ソファ見なよ。」
ソファをみると彼女の足に壁の破片があたり血が出ていた。
「とまれ。」
とりあえず、彼女を安全な場所に置いてからだ。できるか分からないが、やつの人格の数と同じだけ催眠を同時にかけて忘れさせよう。それができないなら息をできないようにして殺せばいい。今日は、頭がまわる。これなら、
「もう効かないって催眠なんて。」
は。なんでだよ。
「だってさ。私が誰か分からないでしょ。」
白いモヤがかかっていた。わからない。小柄であるのか、大柄であるのか。男なのか。女なのか。そして、所長と思われるそれは、今までのショートカットで銀髪なクールな目をしたスレンダーなお姉さんから、胸の大きいまんまるとした目の少女のような顔立ちのツインテールの金髪になっていた。
「私ね。自分を探してるの。みんなでね。」
まぁ、それはいまは、関係ないから置いといてと所長であると思われる人は続けた。
「黙っててあげるからさ。捕まってよ。お願い。」
なんでそんなこと言うのだろうと俺は訝しんだ。
「彼女のこと守りたいんでしょ。そういう人好きなんだ。」
そんな理由でいいのか。と尋ねてみる。
「別に真実を暴きたいんじゃないからね。正義を執行するわけでもないし。」と続けた。自分勝手なやつだなと思った。「ただ平和であってほしいだけだよ。」


5
「よくやったな、所長どの。自首させるなんてどんな手品使ったんだ。」
高倉が質問してきた。
「心でおもっていることと同じか、君の行動はって諭してあげただけだよ。」
「てか、初めから知ってたんですか。彼女の彼氏が催眠を使ってたって。」
細田も質問してきた。
「だって変だったじゃん。告白の文言を考えろなんて依頼。だから周辺で不審なことがないか調べてもらったんだ。でもでもちゃんとわかったのは、君たちが出てったあとなんだよ。まぁ、さっきまで表に出てた私は、そんな大事にとらえてなかったみたいだけど。」
「まぁ、小島の車がぶっ壊れただけで被害は、なかったんだ良しとしようか。」
「全然良くないっすよ。」
小島は、不機嫌そうにそう言い返していた。
「罪を償ってちゃんと告白の言葉をもらえたらいいけどね。もっとも人を殺して出てこれるのかね。」
それは別にどうでもいいんだけどと、所長はいう。
「誰かのために自分のすべてを捨てたんだから、報われるべきなんだよ。でないとかなしすぎるからね。」


6
じゃあ最後にクエスチョンと所長は言ってきた。こちらは、もうクタクタだというのに。
「なんですか。」
「彼が本気を出したら勝ったのはどちらでしょうか。」
所長が負けることは、ないと思うのだけどなあ。問題にするってことは
「石川のほうなのか。」
「正解。」
だから、あっちにもメリットがあるような幕引きを用意したのさ。と得意げに語る所長は、たのしそうだ。
「あいつは、追い込まれれば追い込まれるほど強くなるタイプだよ。」
まぁホントに殺すと思ってたら、俺も死んでたみたいだからな。いくら再生ができるからといっても即死攻撃は死ぬんだろうし。そう考えると今までで一番ピンチだったのか。
「あとは、早く極刑になってくれるといいんだけどな。」
へ、
「だってさあんなの生きてたら、世界滅んじゃうじゃん。」
あ、別に優しさで真実を言わなかったわけじゃなさそうね。
「後悔が残らずに死んてくれるなら。それでいいんだよね。恨んだり、遺恨があったりしたら、呪いに転じたり、覚醒したりするからね。」
所長はやはり恐ろしいなと思った。というかさっきいってた、報われるべきなんだよって発言はじゃあ何だったんだよ。
「だから、報われたーて思い込んで死んでくれって意味だよ。じゃないと悲しいでしょ。世界を滅ぼす可能性あるから、冤罪だけど死んじゃうんだ。」
「冤罪なんすか。」
「そうだよ。」
へーー、まぁそれなら、報われてくれって感じだな。犯罪見逃すことになってるけど。
「まぁ誰も知らないことは、ないことと一緒だからね。」
それもそうだね。明日が平和であるなら、そっちのほうが大切だな。


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