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木材の調湿能を活かし暮らしを健康に

微生物の生存環境と人の健康

立春が過ぎ2月も半ばになると、春の到来が待ち遠しい。春先4月の気候は冬から夏の移行期にあたり、昼間の外気は25℃以上に、逆に夜間は10℃以下になることがしばしばです。このような外気温の日周変化に伴い、雨が降らなくても相対湿度(RH)は大きく変化し、一昼夜で20%RH以下から90%RH以上の振れ幅を示すことも珍しくありません。

ところで、居住空間の湿度環境はわれわれの健康に極めて大切です。相対湿度と微生物の関係をみると、ウイルス・バクテリアの生存に適切な湿度は、概ね低湿側(<40%RH)と高湿側(>60%RH)の範囲にあり、カビ・ダニは高湿(>60%RH)範囲とされています。したがって、人の健康維持には、このような微生物の生存しにくい湿度環境が望ましいのです。上記のデータから人の健康に望ましい湿度範囲は、40~60%RHということになります。この湿度範囲はまたアレルギー性鼻炎や喘息、呼吸疾患の緩和にも効果があります。

このようなデータを背景に、健康で快適な温熱環境の目安、たとえば、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の推奨値は、気温17-28℃、相対湿度40-60%RHとされています。ただわが国の場合、欧米諸国に比べて同じ中緯度にありながら年間降雨量が遙かに多く、屋久島のように年間4,000~ 5,000 mmに及ぶのは例外としても、平均1,800mmに達しています。このようにわが国は全般に外気の湿度が高いので、快適な湿度範囲を40-70%RHと設定してもよいと考えます。むしろこの程度高湿側に振れ幅のあるほうが皮膚の保湿効果を高め、アトピーによるかゆみや肌荒れを防ぎ、美容にも効果があると思われます。

健康に関わる室内の空気質環境としては、以下のような機能が建物や内装材に求められます。
・光化学スモッグや微生物など、汚染源の室内侵入を防ぐ
・アルデヒド類、トルエンなどの空気汚染物質(揮発性化学物質、VOC)の発生を防ぐ
・微生物などの生存を抑制する
したがって、空調機器や設備は、単なる温度調節から温度・湿度の管理、清浄な空気を供給する時代に移りつつあります。

木材の湿度調節能

木材が調湿能に優れていることは、比較的よく知られています。近年住宅の高断熱・高気密化が進み、夏場の高温多湿に対しては空調設備等があれば、快適な生活環境を保てるようになりました。けれども、冬場の低温低湿への対処はまだ十分ではありません。

たとえば、空調設備機器により暖房すると、部屋の相対湿度がますます下がり、過乾燥が進みます。これを補うのに加湿器を用いると、湿度が急激に上がります。適切な湿度範囲にコントロールすることはなかなか難しいのです。バッファーとなる吸放湿素材、たとえば、木材を内装や家具に配置すると、湿度が上がり過ぎると吸湿し、乾燥時には適宜放湿して、湿度の急激な変化を緩和し、平準化に役立ちます。

木材の湿度調整能を十分活かすには、室内の床、壁、天井等に適切な量の木質建材を使いますが、いくつか留意が要ります。まず、木質建材の接着剤や塗料に遊離のホルムアルデヒドや(トルエン、ベンゼン、アセトンなど)有機溶剤を含まないこと、これは空気汚染物質の発生を防ぐのに重要です。ついで、オイルステイン系やワックス系の塗料を使うこと、これは素材の吸放湿機能を活かすために大切です。ウレタン系などの塗膜を形成する塗料では、湿度調整能が格段に落ちます。

こうして室内の温湿度を適正に保って汚染源(微生物)の生存を抑制し、揮発性化学物質(VOC)の発生を防いで、室内の空気を清浄に保つことが、健康で快適な暮らしに役立ちます。



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