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スギ木口スリット材をご存じですか

わたしは長年スギ材と人との関係を研究してきました。これまでも木と人のかかわり、木の魅力や木の香り、木の寿命などについてnoteに記載してきました。
スギ材は人のこころとからだの健康維持に役立ちます。

たとえば、スギ材には以下のような効用があります。
1. オゾンや窒素酸化物、ホルムアルデヒドなどの大気汚染物質を吸着除去
2. 優れた調湿/調温機能
3. 香り成分により、からだを落ち着かせ、こころをリラックスさせる

大気汚染物質を吸着除去するスギ材の効用は、その香り成分が大きな役目を果たしています。スギ材の香り(精油)は、δ-カジネン、β-カリオフィレン、α-クベベンなどのセスキテルペン類が主成分です。ヒノキ材やマツ材の香り成分は、α-ピネンなどのモノテルペン類が主体ですので、同じ針葉樹材でも放出される成分に違いがあり、香りも異なります。

スギ材に限らず、木材の香り成分の放出には水分や湿度の影響が大きいと思われます。香り成分は、木材の含有水分の移動、つまり木材からの水分の吸放湿に伴って細胞壁を移動し、大気に放出されると推定されます。

したがって、スギ材の香り成分の放散は、木材の組織構造も多いに関与しているのです。たとえば、針葉樹のスギ材の主な細胞の構成要素は仮道管です。仮道管は、直径10~50マイクロメータ、長さ2~4ミリメータの細長い中空紡錘形の細胞で、軸方向に配列しています。このため、木材は縦(軸)方向と直交(横)方向で強度や物性が大きく異なり、いわゆる異方性を示します。また、切り口によって、横断面を木口、接線面を板目、そして半径面を柾目と呼びますが、組織の見え方が異なるので、それぞれの面に特徴的な木目模様を見せます。

木材の含有水分の移動速度も異方性があります。縦方向の速度が横方向に比べて2桁大きく、したがって、香り成分の放出は木口面で著しいと推定されます。事実、スギ材において木口面の空気汚染物質除去能力は横方向に比べて5倍程度大きいことが観測されています。このことは同時に木材の調湿能についても木口面が優れていることを物語っています。

しかし、実際上、木口面が大きく露出する木材の使われかたは家具・内装材ではほとんど見当たりません。むしろ、木口を覆い隠す場合も多いのです。寺社仏閣の軒先に突き出ている垂木をみても、木口面が雨掛かりに露出するので、水分の吸収や腐朽の防止に胡粉を塗り、あるいは乾燥割れを防ぐために銅の飾り金具を打って保護しています。この細工には意匠上の意味が込められているのは言うまでもありません。

スギ木口スリット材は、これまでの発想と全く異なり、木口面の特性を積極的に活用しようとするものです。このため、繊維方向に直交するスリットを一定間隔に作成した内装材です。スリット加工によって、見かけの板材表面積に対する木口面積を飛躍的に高めた製品で、壁材、天井材、家具材としてさまざまな部材に利用することができます。

ちなみに、わが家の居間では、冬の過乾燥時に一合枡に水を張り、その中に両面をスリット加工したスギ板(縦85x横60x厚さ30mm)を縦方向に立てて入れています。空調機近くの棚に温湿度計と一緒に置いておくだけですが、水面が毎日3-5mm下がり、水が蒸散しているのがわかります。室内の湿度は概ね40%程度に保たれて快適です。チェックとメンテナンスに多少気を配ることを厭わなければ、スペースを取らず、加湿器と違ってまったくエネルギーが要らないので省エネにもなります。


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