檸檬とアゲハ蝶と蜘蛛

去年の桜の咲くころ、山椒の植木を買った。そしてアゲハ蝶にたかられ、もりもりと喰われた。買ったばかりの山椒は小さく、ある程度育った幼虫を近所の夏蜜柑の木に捨て子にいっていたが追いつかなかった。
このままでは丸ハゲにされてしまう、という危機感があった。というか、かわいい山椒くんは現実的に落ち武者よりハゲだった。
わたしだって木の芽でしゃれおつな煮物を食べたいのに! あきらかにわたしが食べるはずの新芽を幼虫が食べている!!
悩んだ挙句かしこいわたしは山椒の木を守るための生贄として檸檬の木をホームセンターで買った。

さて、今年。
わたしは去年よりパワーアップしていた。何匹もの幼虫を見守ってきたせいか「ちょうちょさんかわいそう><」という気持ちはさっぱり消えていた。
木についた卵も小さい幼虫もぽいぽい手で捨てられるようになった。5ミリまではいける! ただし見落としていて成長してしまった幼虫はちょっとこわいのでそのまま育てることにした。

そんな2年目の春がすぎ、長い梅雨がきた。
山椒は梅雨に耐えられなかった。

わたしに残ったのは檸檬の木だけだった。

檸檬の木はもともと生贄用だったこともあり、そこそこ大きいので幼虫1匹くらいなら喰わせていく甲斐性があった。しかしアゲハ蝶は遠慮しない。蝶の舞うベランダ、それだけ聞くと童話のようにロマンチックだが、現実として1度飛んできたら5つくらいは産卵されている。

いつからか、檸檬の木とベランダの手すりのあいだに、蜘蛛の巣ができていた。たぶんジョロウグモだろう。(ぐぐった)
けっこう邪魔な場所にある蜘蛛の巣を、わたしは壊せなかった。
そして心配になってしまった。
この子、ごはん、食べてる? ちゃんと食べてる!?


いまベランダには檸檬の植木がある。そしてアゲハ蝶の5齢幼虫(緑色まで進化したやつ)が1匹。蜘蛛が1匹。蜘蛛に、産まれたてのアゲハの幼虫や魚肉ソーセージをあげる人間が1人。

台風10号は関東にやってくるんだろうか。最近はそのことばかりを気にしている。
台風で檸檬の木が折れませんように。蜘蛛の巣が壊れませんように。アゲハの幼虫が落ちませんように。
今年の夏は7匹の蚊を殺し虫殺しの称号をゲットしそうなわたしだが、勝手にそんなことを祈っている。