生涯、ひいきにしてやろう
どうやら私が老衰で死ぬまでこの家はもたないような決定的な壊れがみつかった。この冬は我慢して過ごすがゆったりと転居先でも探そうかと思う。
ボロ屋なので各所に穴があいている。最も恐れていたネズミが出入りするようになった。こんな地域にネズミなんかいないのに。一週間ほど放置していたがあのカリカリ音は癪に障る。ホームセンターで粘着タイプのシートを買うが、昔これで犬のエサに紛れ込んだ小さめの種類の個体は楽に取れた。あいつら粘着シートにくっついたまま複数死んでた。
今回もそれを購入したが、あの程度の粘着は脱出できるような大型のようだ。脱出の形跡があった。
数十年前祖父が使っていた金属製の古い形のネズミ捕りを購入した。三日目にかかった。かなりでかい。さあ殺そう。
ネズミ捕りがすっぽり入るビニール袋にそれを入れ、冬に近いし寒いだろうからと温水で徐々にお湯を満たしていったここらへんがカワイの優しさ。呼吸が出来なくなってから十数秒でネズミは死んだ。その姿をみていた。これをみるのは数十年ぶりだ。裏庭に土を掘りそのまま埋めた。来年頃には見事な骨格標本が出来ているだろう。
あの昔ながらのネズミ捕りの罠、いい仕事しやがる。生涯、ひいきにしてやろう。
ネズミがいなくなっても穴はそのままだ。内壁はシロアリでボロボロだ。中の木材もボロボロだろう。雨漏りも尋常じゃない勢いでする。冬に割れたガラスはそのままだ。板を貼って新品のガラスになど交換もしてない。こんなボロ屋に金を使うのがもったいない。
そのネズミカリカリ音の間、この家から持ち出すものをいろいろ考えた。たいしたものはない。さっさと引っ越し先を決めるべきか。ただ、近所には番犬代わりの数十年の付き合いがある住人どもがいる。あいつらが全滅してからでもいいと思った。
父が自分の好き勝手に動けなくなったのが七十過ぎ。その数年後に死んだ。そこを目安にすると私が好き勝手に身体を動かし楽しめるのはあと十数年。
物騒な世の中なもんなので殺傷力の高い丈夫なピッケルを手元に置いた。入ってきてみろ全力で何度も刺してやる。寝床に立派な刀袋に入っていた日本刀をいつでも使えるように袋から出した。白鞘に収めてあった軍刀も実戦用にいつでも使えるように拵えに交換した。ただし二尺三寸のそれらは室内では振りかぶれない。『カムイ伝』の通り、「突き」だけで返り討ちにしてやる。玄関その他各所にランボーが使うようなナイフと木刀と刺身包丁十数本を配置した。これは妹が「どうやら我が国日本がかなりの野蛮なクズ国になった、一人暮らしの初老の兄が心配だ、もっと安全なところに引っ越せ」の助言からそうした。
闇バイトどもの実生活の悲惨さはよく知ってるがなんの同情もわかない。返り討ちにする、過剰なくらいに。当然、冬用、と称して車にも武器になりそうなものは積んである。いつでもこい。殴りつける際の一瞬の躊躇は大昔はあった。いまは微塵もない。全力でやれる、そこまでの宗旨替えをさせたお前らが悪い。
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