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カブールのバザールとチャイハネ

アフカニスタンに入国したその日、ジャララバードはタリバンとの遭遇率が高いということで一気に首都カブールに移動した。舗装されていない道をボロボロの車が凄まじい砂埃を立てながら進んで行く。

街の中心部につくと、バサールの熱気が凄まじいことに驚いた。僕は荷物を安宿に預けると早速散策に出かける。ちょっと前に不幸な出来事があった街とは思えない熱気を感じ、やはりここはアジアのど真ん中なのだと天を仰いだ。街の熱気が太陽と戦っているような、そんな空気を感じたのだった。

かつて、カブールはカトマンズ(ネパール)やバンコク(タイ)に並ぶバックパッカーの聖地であった。世界中から旅人が立ち寄り、このバザールの賑やかしに一役買っていたのだろう。彼らにとっての聖地の条件には物価の安さ、料理は美味しさ、独自文化の存在などが挙げられるが、ここには全てが揃っている。

この手の話については僕は語り出すと長くなってしまうので、1つに絞って話すと「ガンダーラ文化」これを伝えておきたい。

このエリアは東は仏教とビンズー教、西はイスラム教のエリアに挟まれた地域となっており、シルクロードの交差点と呼ばれている。人や物の行き来が盛んに行われる中で絶妙に文化が混じり合って独自の文化が育まれた。

例えばイスラム教は一般的には一神教で他の宗教と混じり合うことはないのだが、このエリアの人は数珠を持っている。そして、国のど真ん中には仏教遺跡のバーミヤン遺跡があったりする。これらの文化は独特でとても美しい。そして美しさを語る上で外せないのが、「ラピスラズリ」の存在である。

ラピスラズリといえば、アニメ「天空の城ラピュタ」で登場する飛行石のモデルになっているとも噂される藍色の石である。これがアフガニスタンではめちゃくちゃ取れるらしい。そして、藍色の石に金色の筋が通っているものがあるらしく価値が高い。

ここで、かの有名なエジプトのツタンカーメンを想像してほしい。黄金のマスクには縞模様が入っていると思うが、この縞にはアフガニスタン産のラピスラズリが使われていたと言われている。エジプト文明の時代にわざわざアフガニスタンから運び出すとは…。価値の高さが伺えるエピソードである。

そんなこんなで、私の散策も撮影がてら、ラピスラズリを探すことからスタートしていたのだった。

この国には本当に気さくな人が多くて、チャイハネにいるとすぐに誰かが話しかけてくれるし、食堂の絨毯に座っていても自分の料理を持って絡んでくれる人がいる。顔つきも日本人に似ているので居心地が良い。ちなみにこの地域ではチャイにミルクを入れないらしい。砂糖のみをたっぷり入れていただく。

その時、ふいに誰かが「チャイはビューティフルだ」と話すのを聞いて、この人たちの精神性を少し感じることができた。

彼らにとってのチャイはお茶会を意味しており、それはビューティフルな存在なのである。僕はおかわりが注がれると思わずグラスを持ち、グラス越しに外の景色を見る。透明な赤茶色の向こうでは容赦無く降り注ぐシルクロードの陽射しが見える。

どれくらい時間が流れただろうか。天井からガーガー音を立てている扇風機の風が行ったり来たり、時折涼しく感じられた午後のひとときであった。

(続く)


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