青森県の下北半島 その2

とある年の10月、僕はたった一人で、青森県にある恐山を目指し、下北半島を北上しました。

三度目の緊急事態宣言が発出される現在、行きたいところに行けたあの時を振り返ります。

たどり着いた、"下風呂温泉郷" でも、どこか寂しい。日本の過疎化問題を、北国の共同風呂に浸かりながら、肌身で感じた。
漁師同士が交わす難解な青森弁を聞き、目を閉じるとここは本当に国内なのだろうか?と疑いたくなる外国感。
身も心も沸き立つ様な、旅情を感じかけていた僕は、火照った体を冬目前の北国の夜風にさらし、意気揚々と宿に戻った。

"しもぶろ荘"に帰ると、温泉に行く前には無かった、沢山の履き物が玄関に並んでました。そして、楽しげな笑い声。僕以外には、宿泊客はいなかったはず、でも青森に来て初めての楽しげな声。僕の部屋に続く階段を昇る足も軽やかになる。

部屋に入ると、季節外れの宿泊客の存在に気付いた宴会の主達が、ヒソヒソ話始めた。いくら静かに話そうが、聞き耳を立ててお誘いを待つ僕のには、クリアに聞こえてきたのである。
「こんな時期に客か?珍しいな」とか
「男か?女か?」
だが、少しの間静まりかえった宴会も、すぐに活気を取り戻し飲めや歌えの大騒ぎ。
僕はと言えば、てっきりお声がかかるものだと、甘い考えが無くもなかったのでワクワクしながら一階の騒ぎに淡い期待を寄せていました。
しかし、宴会の主達は、そんな僕の期待を他所に一段と楽しげにやるもんだから、僕は僕でどうにか声をかけてもらおうとして、一階にしかないトイレに何度も降りてみたり、咳払いをしたり、存在をアピールしましたが、遂にお誘いはなく、寂しく涙で枕を濡らしながら、就寝したのでした。

次の朝、朝食の準備が出来ましたとお知らせがあり、少しふて腐れながら食堂に降りました。
女将が、「昨晩は、うるさくして御免なさいね…」などと謝られたので、「賑やかでしたね」と返すだけにし、朝食を口にしました。
途端、昨晩の寂しさや腹立たしさは吹き飛ぶ絶品の"黒ソイの煮付け"!
やはり、漁師経営する民宿、晩御飯を食べられなかった事を今さら後悔しました。
終わりよければ全て良し。

僕はまた、むつターミナル行きのバスに乗り込み下北半島を南下しました。
次の目的地は、日本三大霊山の一つ"恐山"
天気は良く、申し分のない秋の279号線は、穏やかな太平洋を左手に走り、すぐに海の見えない山間に風景が変わり、退屈した僕は寝てしまいました。

続く

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