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困難女性支援パブコメの結果公示は「全ての意見の趣旨」を含んでいるか?(行政手続法43条との対応)

0. まとめ


●パブリック・コメントの結果公示には“全ての”意見の趣旨と、それらを考慮した結果とを含んでいる必要があります。
●困難女性支援法の施行に向けた2つのパブリック・コメントでは、一部の意見が結果として公示された「意見の概要」に含まれていないように見えます。
●仮にそうならば、これは行政手続法43条に反しており、早急に公示内容の修正が必要です。

1. はじめに


 困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針(案)、同法律の施行に伴う関係法令(案)についての2つのパブリック・コメント(パブコメ)の結果として公示された内容に疑問を持っています。パブコメは行政のアクションに対する意見を吸い上げて共有し、それらに対して「問題ない(問題ある場合は修正する)」と示し、社会全体の理解・納得を深めることが目的です。
 ● 行政手続法の所管部署である総務省
 ● 両パブコメを実施した厚生労働省
 以上2省に質問を行い、回答を頂きました。本稿は頂いた結果をまとめ、改めて疑問点を提示するものです。質問・回答の原文は末尾に付記します。私は法律・行政ともに素人ですので、本疑問について広くご意見を頂く、あるいは公にご議論を頂ければ幸いです。

 なお、本稿で扱うのは「法の施行に向けた行政手続」についての疑問です。困難女性支援の活動、法およびパブコメ対象である方針(案)、関係法令(案)の趣旨、内容、成立経緯などの諸々への思いは除いております。

2. 総務省見解:意見の取扱


 パブコメで届いた意見の取扱は行政手続法第43条で規定されています。同法所管部署である総務省に、一般論として、意見をどう取扱うのか?どう公開するのか?伺いました。
 図1に行政手続として規定される意見の取扱をまとめます。なお、以下説明の「総務省Q1」は6、7章記載の質問回答原文と対応します。

図1 パブリック・コメントで届いた意見の取扱


【図1:意見1~5】命令等制定機関(以下、実施者)は、公示に当たって、届いた意見をそのまま公示すると却って分かりづらい場合、複数の意見をまとめて1つにしたり論点を要約したりする、「整理」「要約」をすることができます。但し、元の「意見の趣旨」を損ねるような整理、要約は許されません。(総務省Q1)
【図1:意見5,6】実施者は意見を部分的に、あるいはその意見そのものを「除く」ことができます。但し、公示や公にすることで第三者の利益を損ねる、あるいはその他正当な理由がある場合に限られ、必要以上に除くことはできません。(総務省Q3、4)
【図1:意見7】そもそも実施要項に沿っていない意見は意見として扱う必要はありません。(総務省Q6)

3. 総務省見解:結果の公示


 実施者は、パブコメで届いた意見は全て考慮し、その意見と考慮した結果を公示することが原則です。図1の通り、「考慮」は「意見に沿って修正する」ことも含みますが、「参考にします」「問題ありません」「認識違いです」といったつれないものでも構いません。
【図1:公示】(案)を取り払って次のステップに移る前に、整理・要約した意見群(概要A~D)と、それらを考慮した結果を全てe-Gov(電子政府ポータルサイト)にて公開します。大事な点として、ここで公示されるものには、正当な理由によって非開示となるものを除き、「全ての意見の趣旨」が含まれていることです。(総務省Q6)
 そして、もしも公示内容に遺漏があった場合、実施者は速やかに公示内容を修正すべきです。(総務省Q5)
【図1:公にする】公示で示した意見群が整理・要約を受けている場合、公示の後遅延なく、実施者は提出意見そのものを公にする必要があります。「公にする」とは「提出意見の閲覧を求めるものに対して秘密にしない」ことで、やり方は実施者に任されます。これによって提出意見が適正に整理・要約を受けているかが確認できます。(総務省Q2)

4. 困難女性支援パブコメ結果公示の見え方


 図2に、困難女性支援の2つのパブコメの結果として公示されたものの見え方を示します。

図2 困難女性支援パブコメの結果公示の見え方


 パブコメの結果として公示されるものは「全ての意見の趣旨」を含んでいるはずです。しかしながら、今回提示されたものは全くそのようには見えません。届いた意見を提示したうえで「問題ありません」と宣言するなら手続上問題ありませんが、意見の趣旨を提示さえもしないのは行政手続法の規定から外れており、問題ではないでしょうか?
 少なくとも私が指摘した60箇所のうち58箇所は「意見の概要」にその箇所への言及さえありません。いずれも非開示となる覚えのない意見ばかりであり、「元の意見の趣旨を損なわない整理・要約」の結果では無いと感じています。また、私の意見が単純に届いてないだけだとしても、ネット上で公開されていた多くの提出意見も同様に趣旨として含まれていないように見えます。
 厚労省からの回答は下記の通りです。
● いただいたご意見の中には、(略)の条文案そのもの等とは、直接的には関係のないもの等があるため、必ずしも全てを考慮した結果になっているものではございません。(厚労省Q6)
● 非開示とした御意見はございません。なお、御意見の一部に非開示とすべきものが含まれているものがありますが、頂戴した御意見が膨大な量であり、かつ内容も多岐に渡るため、最終的に公表可能な資料については引き続き精査中です。(厚労省Q2、3)
 私の意見は「条文案そのものと直接に関係するもの」ですので、図2の通り、「等??」として処理されて公示に反映されなかったように見えます。これは総務省見解と整合するのでしょうか??
(私の質問例はこちらの末尾に記載)
https://note.com/kawadajigenaka/n/nfad0de82dbba

5. さいごに


 厚労省には、行政手続法より、届いた全ての意見を速やかに「公にする」義務があります。公になった元の意見と公示された内容とに大きな齟齬が無いか、心配です。そもそも、私たちが提出した意見と厚労省が受け取って考慮したとする意見とが一致するのかさえ、現状では疑念を持たざるを得ません。
 この疑念は行政手続についてのものですが、手続上の疑念は対象そのものの正当性を揺るがします。困難女性支援を進めるべきならなおのこと、本疑念には適正に回答頂き、パブコメの目的である社会の理解・納得を得ることを達成して欲しいと、ひとりの国民として感じております。特に全国平等の福祉を実現するには、様々な意見に対して全国で統一した回答・対応が必要となり、このパブコメでの回答はその指針となるはずです。また、仮に本疑念の通りに手続上の大きな不備があったのならば、故意であれ瑕疵であれ、なぜそうなったのかを検証されるべきと考えます。

 総務省、厚労省とのやり取りには、政治家女子48党の「諸派党構想・政治版」を活用させて頂きました。ご対応を頂いた浜田聡参議院議員、末永ゆかり様はじめ浜田先生事務所の皆様に感謝申し上げます。
 また、ご多忙の中で回答をいただきました総務省、厚労省の皆様に感謝申し上げます。
 本件のこれ以上の確認・追及は国会等の公の場で進められるべきと考えます。議員の皆様、よろしくお願いします。

「諸派党構想・政治版」
https://t.co/vByRfz8kWE

6. 付記1 総務省質問、回答


 質問の順番、添える番号、段落のみ調整しています。
(行政手続法第43条について)
 Q1 パブリック・コメントの結果開示に当たっての「整理又は要約」とは具体的にはどのような処理か?
【回答】提出意見の整理又は要約につきましては、命令等制定機関が個々の事案ごとに提出意見の数や内容等を考慮して行うものであり、具体的な処理の方法は各命令等制定機関に委ねられておりますが、整理又は要約の範囲は、提出意見の趣旨を損ねない程度にとどめられるべきと解されます。記載いただいた参考文献1に記載のあるとおり、「同種の意見が複数提出された場合には、それらをグルーピングして公示」することも、提出意見の趣旨を損ねない範囲において可能と考えます。

 Q2 「整理又は要約」を受ける前の個々の提出意見、および、個々の提出意見と結果として開示された意見群との対照表は公開されるのか?
【回答】行政手続法は、提出意見を整理又は要約したものを公示する場合、公示の後遅滞なく、当該提出意見そのものを公にしなければならない(「公に」しなければならないとは、提出意見の閲覧を求める者に対し、当該提出意見を秘密にしないという趣旨を指します)と規定しています。整理又は要約された意見と提出意見そのものの対照表の公開までは義務付けておりませんが、命令等制定機関の判断により、そのような対照表を公開することは妨げられません。

 Q3 パブリック・コメントにおいて提出意見を開示しない、および/又は、回答しなくてよい場合があるか?
 Q4 一部意見を開示しない場合、その非開示はどのようなルールに則り、どのような手順で行われるか?
【回答】命令等の案についての意見につきましては、当該意見及びこれを考慮した結果を公示する必要があります(御質問中の「回答」は、提出意見を考慮した結果の公示をお指しになっていると理解しております)が、提出意見を公示し又は公にすることにより第三者の利益を害するおそれがあるとき、その他正当な理由があるときは、当該提出意見の全部又は一部を除くことができます。「除く」とは、該当箇所を、その内容が分からないように黒塗り等を行い、提出意見から除去することを意味しますが、必要以上に除くことは許されません。
 なお、意見提出期間の終了後に提出された意見、命令等制定機関以外の者に提出された意見、命令等の案以外についての意見につきましては、命令等の案についての意見には該当せず、当該意見及びこれを考慮した結果を公示する必要はございません。

 Q5 上記4.に依らずに一部の意見が開示されなかった場合、当該パブリック・コメントは終了したとみなせるのか?
【回答】いわゆるパブリック・コメントは、結果の公示をもって終了いたしますが、公示された内容に遺漏があった場合は、命令等制定機関は速やかに公示した内容を修正すべきものと考えます。

 Q6 Q1〜5より、パブリックコメントの結果としてe-Govにて公示されるものは、当該案件に寄せられた全ての意見(但し3、4に従い適正に除かれたものを含まない)の趣旨を含み、かつ、それらに対して考慮した結果が含まれると解してよいか?
【回答】記載いただきました解釈で問題ございません。

7. 付記2 厚労省質問、回答


 (3/28に結果が開示された困難女性支援法に関する2つのパブリックコメントについて)
 Q1 提出された意見の総数は?(非開示決定および「整理又は要約」の前)
【回答】以下のとおりです。
〇「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律の施行に伴う関係法令(案)」:784件
〇「困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針(案)」:1021件

 Q2 1.のうち、非開示とされた数は?
 Q3 非開示とされた案件について、仮に幾つかの判断基準があるとして、どの基準によって非開示とされたのか、内訳は?
【回答】非開示とした御意見はございません。
 なお、御意見の一部に非開示とすべきものが含まれているものがありますが、頂戴した御意見が膨大な量であり、かつ内容も多岐に渡るため、最終的に公表可能な資料については引き続き精査中です。

 Q4 「整理又は要約」を受ける前の個々の提出意見、および、個々の提出意見と結果として開示された意見群との対照表は公開されますか?
 Q5 Q4.で公表されるなら、その手段と時期は?
【回答】〇御指摘の資料については作成しておらず、公表予定はございません。

 Q6 e-Govに公示された結果は1.で回答頂いた件数の意見全て(但し一部の非開示となる部分を除く)の趣旨を含み、かつ、それらに対して考慮した結果が含まれると解してよいか?
【回答】いただいたご意見の中には、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律の施行に伴う関係法令(案)」及び「困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針(案)」の条文案そのもの等とは、直接的には関係のないもの等があるため、必ずしも全てを考慮した結果になっているものではございません。

 Q7 Q1で回答頂いた「意見の件数」の定義をご教示頂きたい。併せて、eメールで提出された複数の箇所への指摘を含むExcelファイルは、1件となるか指摘箇所の数等に応じた件数となるか、ご教示頂きたい。
【回答】同一の方から頂いたご意見は、複数指摘が含まれている場合も1件とカウントしております。(意見フォームやメールでご意見をいただいた場合は、1つのeメールアドレスごとに1件とカウントしております。)このため、同一のeメールアドレスよりいただいた意見は、複数指摘等がある場合も1件となります。

 (一般に同省にて所管するパブリック・コメントについて)
 Q8 パブリック・コメントの結果開示に当たっての「整理又は要約」の実施手順は?
 Q9 「整理又は要約」を受ける前の個々の提出意見、および、個々の提出意見と結果として開示された意見群との対照表は公開されるのか?
 Q10 提出意見を非開示とする場合のルール、非開示を判断する手順は?
【回答】お尋ねの行政手続法第43条第2項及び第3項の運用に関し、厚生労働省として独自に省内向けのルールを定めることは行っておりません。したがって、お尋ねの事項についてはいずれも、同法に基づき各立案担当部局において適切に判断・対応することとなります。

※反省※ Q4、Q6は複数の質問を含んでおり、厚労省からの回答はそれぞれの後半部分のみで前半部分にはお答えを頂けておりません。当方の訊き方が悪かったなと、次回からこういった機会があれば分割して質問するように留意します。(同じ質問に総務省はしっかりお答えいただきありがとうございます)

8. 参考事例:環境省のパブコメ


 2023/3/31に「次期生物多様性国家戦略(案)」に対する意見募集の結果が環境省から公示されました。(単純に同時期に出た意見数の多い案件を引いただけです)
 このパブコメに意見を提出した個人・団体の数は723、のべ意見数は1307 件です。この結果として公示されたものは、27ページ116項目(複数の意見を含みます)の指摘と、それに対する考え方です。
 厚労省Q7のとおり、困難パブコメでは「意見数」を「意見提出した個人・団体の数」としていますので、のべ意見数はこの環境省パブコメよりも多くなりこそすれ、減ることは無いと推定されます。その結果として公示されたのは(方針)8ページ29項目、(法令)4ページ9項目です。

環境省:「次期生物多様性国家戦略(案)」に対する意見募集の結果について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=195220059&Mode=1

9. 参考文献等


参考文献1:宇賀克也著「行政手続三法の解説 第3次改訂版」学陽書房、2022
参考文献2:瀬戸市におけるパブリック・コメント制度 
http://review.city.seto.aichi.jp/docs/2010111003862/files/public-comment.pdf

行政手続法(パブリック・コメント 第38-45条)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000088

パブリックコメント結果1:困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針(案)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=495220327&Mode=1

パブリックコメント結果2:同法律の施行に伴う関係法令(案)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=495220328&Mode=1

以上

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