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2018年1月23日 三通目

東京に大寒波のニュースが流れて、大雪が積もった翌日に書いた手紙です。
歳を重ねるごとに、雪なんてワクワクしなくなっていました。でも、あまりにも日常の景色を潔白に変えてくれる雪、電車の窓からみえる線路が埋もれそうなほど積もった雪が、真っ白で清らかで、なんだかきゅんとしたのを覚えています。

さて、昨年末から交流を始めたある死刑囚との対話の続きです。
この交流を掲載するまでに至る経緯や意図などは、過去のブログをご参照ください。

土屋和也さまへ

寒い夜が続いています。街をゆく人たちは皆、口癖のように「さむいさむい」と憂いています。きょう、東京は大寒波のニュースが流れました。
こんなにも寒いと、つい下を向きがちですが、それでも空を見上げると、あたたかな冬の太陽が凛とした空に輝きを放っていて、土屋さまにも見てもらいたい思いです。
拘置所内、窓はあるけれど透明ガラスではないと聞いたことがあります。狭いお部屋で日々、どんなことを考えていらっしゃるのかな?と、この手紙を書きながら想像しています。しかも今日なんて寒い日は足の先が凍てついてるんじゃないかと勝手に心配してしまうのです。靴下とか、カイロとか、他の防寒具とか、あたたかグッズは持っていますか?差し入れしたいので、どうぞ甘えてください。
さて、いつもご丁寧にお手紙を綴ってくださり、ありがとうございます。わたしの質問にも答えてくださって、重ねて感謝。
前橋の拘置所にもいらっしゃったことがあるんですね。逮捕直後のことでしょうか?
拘置所内の皆さまに対する処遇があまりに良くないことは、おかしいと思っています。なんのためにそこまで懲らしめるのか、わたしにはさっぱりで、理解に苦しみます。
あと、好きな食べ物は『菓子』とあったのが気になりました。たとえばどんなものですか?わたしはチョコレートが好きで、薬局で安く売られているのをつい買ってしまいます。あと、好きな小説の作品名も合わせて教えてください。
これから寒さは厳しさを増すかと思います。風邪など召されませんように。
またお返事がくること、心から楽しみにしています!

2018/01/23河内千鶴

2018/01/25 返信あり

敬語が少なくなり、硬い表現の多い文章。
話題は雪のこと。過去の雪の日の記憶が綴られていたり、雪の日でも転ばない歩き方を伝授してくれたり。今ある知恵をつたない言葉で一生懸命伝えようとしてくれていたことが、伝わってくる。世間話に、好きなお菓子や漫画・小説の作品などが書かれていた。

私に対して警戒しているよう。
差し入れの話に対しては、各品物ごとに誰からもらっているのか詳細が書かれ、他のものは自分で購入しているというのだという。だが、それがただなんとなく、「差し入れなどしてくれるな」と読み取れてしまったほどで、冷んやりとした彼の言葉が私の胸をチクリと刺した。戸惑う私の心のうちなどお構いなく。

「死刑囚だから思いやりなどないのだろう」と言われれば、素直に頷いてしまいそうな自分が居た。そんな自分に嫌気がさした。

ただ、きっとそうではないはずだと自分に言い聞かせる。そんな簡単に一言で片付けてしまいたくない。誰にだって優しさを忘れてしまうときはある。怒りに満ち満ちるときだってある。思考回路はいつも長く持っていたい。

文末には私の体調を気遣う一文。筆跡が残るほど力を入れて綴られた2枚の紙の中に、冷たさと優しさが混じり合う彼の文面。その一面を知ったとき、どこか儚く、それでいて暖かいものに触れた気がした。
誤解を恐れずにいうと、彼の「人間らしさ」が不器用に2枚の用紙の中に敷き詰められていた。


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