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超短編小説『続・昭和最後の駄洒落師』

皮茶パパの呂律が回らなくなったことで、非可聴音ショーが誕生して皮茶水族館の経営危機はまぬがれた。
そして、何を言っているかまったくわからない皮茶パパの非可聴音にイルカが反応する現象が話題を呼び、子供たちの間で「非可聴音ごっこ」という遊びが流行した。また、その年の流行語大賞にもなっていた。

その日も大勢の親子連れが非可聴音ショーを楽しみに開園時間まえから並んでいた。
そこに一報が!
「音吉が飼育プールからショープールに移動しません」
飼育員は焦りながら声を荒げた。
「また花子にうつつを抜かしてアウトオブ眼中じゃない」
皮茶パパは、メスイルカの花子に恋して集中できないオスイルカの音吉を察した。
「いえいえ、今回は様子が変です」
皮茶パパが駆けつけるとプールサイドに上げられた音吉に獣医が聴診器をあてていた。
「念のため、食べ物を調べてみます」
獣医は、飼育員に音吉の胃の中を調べてもらった。
音吉は、全長3.5mもある。
音吉の口からもぐった飼育員は、長靴がやっと見えるくらいまで音吉の腹部に入り込んだ。
しばらくして、飼育員は右手にレジ袋を持って現れた。
「やっぱり、これだったか」
獣医はうなずいた。

飼育プールと外海は、海底から海面まではネットで仕切られているが、そこから上はなにもない。
そこで、好奇心旺盛な音吉はネットをジャップして外海に出て遊ぶ。
そして、餌の時間になるとまた戻って来る。
おそらく、外海に投げ捨てられたレジ袋を音吉が飲み込んで体調を崩したのだろう。

元気になった音吉は、皮茶パパと再び非可聴音ショーを繰り広げた。
その日の夜のこと。
宿直当番だった皮茶パパが、宿直室で待機していると飼育プールから男の声がした。
「皮茶パパはイルカ?」
飼育員ではない初めて聞く男の声だった。
皮茶パパは宿直室を飛び出して飼育プールに走った。
すると、外海にジャンプする音吉の後ろ姿が月の光に照らされた。
のちに、音吉が再び皮茶水族館に現れることはなかった。
皮茶水族館には今でも駄洒落を掛け合う皮茶パパと音吉の記念像が残されている!!ギャー

おわり

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