見出し画像

サイレンの音。

 火事にあってから、こどもたちと過ごす時間がふえました。一緒に宿題をしたり、料理をしたり、プールにいったり…。会社から有給休暇をもらってしばらく休み、その後も世の中の流れ的にテレワークみたくなり、家にいる時間がなんだかんだと増えたからです。娘2人は、箸が転んでも可笑しい年頃なので、日々バカなことをいって笑いをとって、心の中で小さなガッツポーズをしつつ、でも同時期父親の威厳を失墜させつつも、極めて平和に過ごしています。

 でも、ドキッとすることもあります。

 先週の土曜日。学校もないし、運動不足になりがちなので、娘2人と近くにある区民プールに出かけた道すがらのことでした。歩道を歩いていると、大通りをけたたましいサイレンを鳴らしながら、2台の消防車が猛スピードで近づいてきました。大人の僕がちょっと怖くなるくらいの勢いでした。

 娘の顔色がさっと変わりました。

 その後、消防車は僕らの真横を走り抜けて行きました。娘は泣いていました。もう1人の娘が肩をだき、大丈夫、大丈夫と語りかけることでようやく落ち着きました。
 2人の娘たちは、2人ともが火事の第一発見者です。小さな炎があっという間に大きくなり、それが家を焼き尽くす様子を目の当たりにしています。もちろん消防隊の皆さんが、それこそ命がけで家が燃えるのを食い止めようとしてくれていたことも知っています。しかしあのサイレンの音は、あの時の恐怖の記憶を呼び覚ますのだと思います。
 2人の娘を横目で見ながら、あの日あの場所に2人が一緒にいてよかったなぁと思いました。記憶を共有することで、分かり合える人がいれば、1人で抱え込まずとも済むかもしれないからです。
 お姉ちゃんは、可愛いものやコスメ、ファッション大好き、妹はそういうのは苦手だったりして、性格も正反対の2人です。でもそれゆえに互いに補完しあっているように見えます。年が近いせいもあるとおもいます。
 小さな2人は、きっとこれからも火事の記憶と向き合っていかなければならないでしょう。辛いこともあると思います。でもその時に1人じゃないことが、なによりの助けになることでしょう。

 それにしても、東京で暮らしていると、1日に何度もサイレンに出会うことがあります。その先に、炎に巻かれ危機の中にいる人がいる、そう思って胸がぎゅっとなります。

あなたからのサポート、すごくありがたいです。